大阪心斎橋殺人を考える7 検察は上告へ

覚醒剤乱用で服役していた過去もある礒飛京三被告による、大阪心斎橋での通り魔事件は一審の大阪地裁が死刑判決を下し、二審の大阪高裁では無期懲役の判決が下されています
司法制度の変革を目指し裁判員制度を導入したはずなのに、その判決をあっさりと覆す高等裁判所の「判例重視」姿勢は大いに批判されるべきでしょう
20年前、30年前の判決と同じでなければならないとする、高等裁判所の見解は大いに疑問です
時勢に合った判決があってもよいのであり、2人の命を奪った通り魔殺人を軽く扱うべきではないと考えます


大阪・ミナミの繁華街で2012年6月、通行人の男女2人が相次いで刺殺された通り魔事件で、大阪高検は殺人などの罪に問われた無職の礒飛(いそひ)京三被告(41)を無期懲役とした大阪高裁判決を不服として、最高裁に上告する方針を固めた。関係者への取材で分かった。上告期限は今月23日になっている。
検察内部には「市民の量刑感覚を反映させるため導入された裁判員制度の趣旨を問い直すべきだ」との意見などがあり、最終協議を進めていた。
求刑通り死刑とした裁判員裁判の大阪地裁判決を破棄した今月9日の高裁判決は、「事件の計画性が低い」と強調。過去に死刑判決が出た無差別通り魔事件とは、計画性や、被害者が2人にとどまっている点で異なると指摘し、「死刑がやむをえないとは言えない」としていた。
高裁判決によると、礒飛被告は12年6月10日、大阪市中央区東心斎橋1の路上でイベント会社プロデューサーの南野信吾さん(当時42歳)と、飲食店経営の佐々木トシさん(同66歳)を刺殺した。
(毎日新聞の記事から引用)


神戸市の女児殺害事件でも一審は死刑判決でしたが、二審の大阪高裁は死刑判決を破棄し無期懲役は言い渡しています
このように相次ぐ裁判員裁判の判断を否定する傾向に対し、産経新聞の社説は以下のように述べています


裁判員裁判で下された死刑判決が上級審で無期懲役に減刑されるケースが続いている。
裁判員制度の導入に際しては、職業裁判官だけによる判断は、国民の良識や常識に照らして乖離(かいり)していないか、との反省が込められていたはずである。
国民視点の反映という観点が軽視されてはいないか。
大阪・心斎橋の路上で起きた通り魔事件(2人死亡)で大阪高裁は、大阪地裁の裁判員裁判による死刑判決を破棄した。
神戸市長田区の小1女児殺害事件でも大阪高裁は1審の裁判員裁判による死刑判決を破棄した。
心斎橋の事件では「計画性の低さ」が減刑の理由とされた。では衝動的な殺人は社会が一定程度、許容しなければならないのか。
この事件では犯罪被害者支援に取り組む弁護士が「誰でも差し支えないという強固な意志で人を殺していく以上、生命侵害の危険性は計画殺人と同等か、それ以上に高い」と指摘し、「裁判員裁判の否定」であるとして大阪高検に上告するよう申し入れた。
国民の常識にかんがみ、妥当な指摘である。
神戸の事件では、被害者が1人だったことが減刑の主な要因となった。殺害された被害者が1人の場合、原則として死刑を回避するなどの判断は、昭和58年に最高裁が示した「永山基準」に基づくものとされる。
平成27年2月、最高裁は裁判員裁判の死刑判決を破棄した2件の高裁判決を支持した。いずれも被害者が1人であることなどが減刑の理由とされ、「判例の集積からうかがわれる検討結果を量刑を決める共通認識とし、それを出発点として評議を進めるべきだ」とする補足意見があった。
神戸の事件もこれに沿った判断だろう。だが、判例の集積が量刑を決めるなら裁判員による真剣な評議はいらない。
被害者が1人の事件でも、多くの裁判員は先例を承知しながら、殺害の動機や犯行態様を考慮し、自身の全人格をかけて死刑判決を選択してきた。
その事実を司法関係者は重く受け止めてほしい。特に性犯罪事件では、裁判員の判断がより厳しくなる傾向が指摘されている。
そうした「国民の感覚」と「先例」の距離を埋める努力こそ求められているのではないか。


過去の判例にそった判決をよしとするのであれば、裁判員制度などやめて判例のデータベースと人工知能に判断を委ねれば済むのでしょうか?
高等裁判所の裁判官たちは裁判員を、「しょせんは素人」と見下している風にも感じ取れます
最高裁がどのような判断を下すのか、注目しましょう
追記:2019年、最高裁は高裁の無期懲役判決を支持し、判決が確定しています

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