三島賞受賞蓮實重彦 「はた迷惑」と批判

第29回となる三島由紀夫賞がフランス文学者蓮實重彦へ贈られると決定したのですが、当の蓮實重彦は記者会見の場で「「まったく喜んではおりません。はた迷惑な話だと思っております」などと批判を展開し、お祝いの席がお通夜のような重苦しい雰囲気になったと報じられています
さまざまなメディアが取り上げているのですが、今回はハフィントンポストの記事から引用します


「第29回三島由紀夫賞」(新潮文芸振興会)の選考会が5月16日に開かれ、フランス文学者で元東大総長の蓮實重彦さん(80)の「伯爵夫人」に決まった。都内で開かれた受賞記者会見で蓮實さんは「まったく喜んではおりません。はた迷惑な話だと思っております」と受賞の感想を不愉快そうに述べた。報道陣からの質問には「馬鹿な質問はやめていただけますか」などと切り返す場面もあり、会見場は異例の重苦しい雰囲気に包まれた。
会見の模様はニコニコ生放送でも中継された。詳細は以下の通り。
■受賞会見の質疑応答
――最初に伺いますが、三島賞受賞の知らせを受けてのご心境をお願いします。
「ご心境」という言葉は、私の中には存在しておりません。ですからお答えしません。
――本日、蓮實さんは、どちらでお待ちになっていて、連絡を受けたときはどのような感想を持ちましたでしょうか。
それも、個人的なことなので申しあげません。
――わかりました。それと、今回、三島賞の候補になったとき、当然のことながら事務局から連絡があり、了解されたと思います。正直、蓮實さんが、前途を開く新鋭の新人賞に候補になったのはびっくりした。もしかしたらお断りになるのではないかと思っていたので。蓮實さんはどのような思いでお受けになったのでしょうか。
それもお答えいたしません。
――じゃあもう一つ、別の質問を。今回、選考委員を代表して町田康さんが代表して講評を伝えられました。町田さんによると、「さまざまな議論があった中で、これまで退廃的な世界も描かれてきた蓮實さんですが、今回の作品は言葉で織り上げる世界が充実していて、小説としての出来は群を抜く」という、そのような…。
あの、質問なら簡単におっしゃってください。
――「さまざまな議論があった中で、これまで退廃的な世界も描かれてきた蓮實さんですが、今回の作品は言葉で織り上げる世界が充実していて、小説としての出来は群を抜く」という評価がありました。そういった評価についての思いは何かありますか。
ありません。
――(司会)他にございますでしょうか。
ないことを期待します。
――こういう場ですと、受賞が決まった方に「おめでとうございます」という言葉を投げかけてから質問するのが通例ですが、ちょっとためらってしまう。蓮實先生は、受賞について喜んでいらっしゃるんでしょうか。
まったく喜んではおりません。はた迷惑な話だと思っております。80歳の人間にこのような賞を与えるという機会が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだと思っております。もっともっと若い方。私は、順当であれば、いしいしんじさんがお取りになられるべきだと思っておりましたが、今回の作品が必ずしも、それにふさわしいものではないということで。選考委員の方が、いわば「蓮實を選ぶ」という暴挙に出られたわけであり、その暴挙そのものは、非常に迷惑な話だと思っています。
(以下、略)


記者からの質問に対し、木で鼻をくくったような返答をし、まったく噛み合っていません
これを不遜な態度と咎めるのは容易ですが、蓮實重彦の側にも言い分があったわけで、そこを汲むのが取材のテクニックではないのか、と思います
作家の百田尚樹は、「候補者になる時点で主催者側から受賞の意向確認があるのだから、嫌なら辞退するのがマナーだ」とツイッターで発言しています。百田尚樹の口からマナーという言葉が出たのは意外でしたが、蓮實重彦の言い分はそこではなく、マナー云々は筋違いでしょう
候補者として名を連ねるのがたとえ当て馬であっても、賑やかしのためであっても構わないと考え、受諾したのであり、受賞する気などさらさらなかったというのが本音ではなかったか、と推測します
そして「若い、前途有望な作家がロートルの蓮實を差し置いて三島賞を獲った」という結果が望みだったと解釈すれば、記者とのちぐはぐなやり取りも理解できなくはありません
加えて、質問した記者たちが明らかに「伯爵夫人」を読んでもおらず、作品の中身を知りもしないまま質問してくる態度に怒りを覚えた、ようにも感じます
ある意味、この受賞会見も蓮實重彦の自己主張であり、意思表明であり、そうと受け止めればよいだけでしょう
むしろ、「そこに何を見出すか」を問うているようにすら感じます
蓮實重彦といえば東大総長時代、入学式で長大な式辞を述べ、参加者を唖然とさせたエピソードがあります。これは入学した東大生をレトリックで煙に巻いたようにも受け取られているのですが、内容は至極まともなものであり、今読み返しても十分にその意が伝わってきます

平成10年度入学式における蓮實重彦総長の式辞

小説であれ、評論であれ受け手の能力が試される、と考えるべきなのでしょう

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