裁判員裁判で死刑執行を批判する朝日新聞 津田死刑囚

昨年12月、裁判員裁判で死刑判決を受け確定していた津田寿美年死刑囚の刑が執行されました。次期を逸した感はありますが、この死刑執行を巡る朝日新聞の報道に思うところがありますので、取り上げます
裁判員制度は市民の感覚を裁判に反映させる狙いで取り入れられた制度であり、背景には過去の判例ばかりを重視し、杓子定規な判決を出す裁判制度への不審や不満が存在します
ところが朝日新聞をはじめとする一部のメディアや市民団体は、「裁判員に死刑の責任を押し付けるのか?」とこれに反対を唱えてきました
この津田死刑囚への死刑執行にあたっても、元裁判員だった男性の苦悩や逡巡を全面に掲げる記事を掲載し、「裁判員制度のあり方について議論のある中、法務省が津田死刑囚の執行を急いだのは問題だ」とする記事を掲載しています


(前略)
「財産もないし、命で償うしかないと思ってます」「口だけならなんとでも言える。死刑囚だと思って生活している」
被告人質問で、弁護人に被害者や遺族への謝罪の意思などを問われ、淡々とした表情でそう答えた。
公判での説明では、元軍人の父親に幼い頃からしばしば理不尽な暴力をふるわれ、川に何度も放り込まれるなどした。中学校を卒業後、入れ墨の彫り師などとして働いた。法廷で読み上げられた調書では、「人を殴ることにためらいがない。すぐに切れて相手をノックアウトするまでやってしまう」と述べていた。
審理では複数の遺族が出廷。厳しい言葉で死刑を求めた。
判決後の記者会見で、裁判員を務めた当時大学4年生の男性は「判決は遺族感情や被告の生い立ちを十分に考慮した結果だ」と語った。一方で、「人の命を決めるのは一般市民には重い決断。死刑が求刑されるような事件には、裁判員制度は適用しないで頂ければ」とも話した。20代の男性会社員は「僕らで人を殺したと考えられるので、精神的につらいものがありました」。30代の補充裁判員も「自分が人を死に追いやることになる。最後の最後まで悩んだ」と振り返っていた。
「執行されたことは、いまでも信じたくない」――。
川崎市でアパートの大家ら3人を刺殺した津田寿美年(すみとし)・元死刑囚(当時63)に昨年暮れ、死刑が執行された。2009年に始まった裁判員制度の対象事件では初めての執行。5年前、死刑の判断に加わった元裁判員が執行後初めて、重い口を開いた。
「死刑がひとごとではなくなってしまった。一般市民が人の命を奪う判決にかかわるのはきつい」。神奈川県横須賀市在住の元裁判員、米澤敏靖さん(27)は心の内を明かした。
思い出したくないのに、フラッシュバックのようによみがえってくる。4カ月前に東京拘置所で刑を執行された津田元死刑囚の顔だ。「法廷での無表情な顔が、浮かぶんです。最期はどんなことを思ったのだろうかと考えてしまう」
津田元死刑囚に、検察の求刑通り死刑が言い渡されたのは、11年6月17日。米澤さんは当時、大学4年生だった。
「判決は遺族感情や被告の生い立ちを十分に考慮した結果。自分のやったことを反省し、真摯(しんし)に刑を受けてもらいたい」。判決後の会見でそう話した。死刑制度はあった方がいいし、死刑にせざるを得ないケースもあると思っていた。
翌月、津田元死刑囚が控訴を取り下げ、判決が確定。「悩んで出した結果を受け入れてくれた」と感じて、ほっとした。
まもなくして、裁判員の経験を話した親しい友人にこう問われた。
「人を殺したのか?」
(以下、略)


裁判員が事件について、被告について何を思うかは人それぞれなので、とやかく言うつもりはありません
ただ、我々は国民としてさまざまな法律、制度により自身の安全や自由を保証されている立場にあります。当然、自由を保証される代償として、国民としての義務を果たす必要があります
裁判員制度もその1つでしょう
自分自身と家族の安全を守るためには犯罪に立ち向かい、これに断固として対処する必要があります。裁判員として刑事裁判への関与を求められた場合、粛々とその責務を果たす必要があるわけで、あまり感傷的になるのはいかがなものか、と
元裁判員の男性がセンチメンタルな感傷に浸り、裁判員制度を批判すれば朝日新聞として大喜びなのでしょうが
この事件は冤罪ではありません。津田死刑囚自身が己の犯行を認めているのであり、そこに議論の余地はないのです
ですから朝日新聞の言う、「死刑が適用されるような重大事件に一般市民を裁判員として関与させ、死刑の責任を負わせるのはいかがなものか?」という問い自体、不可思議な論法です。これではまるで朝日新聞が「裁判員の責任を追求してやる」と言ってるも同然でしょう
裁判員は名探偵ではないので、事件の事実関係を判断する責任を問われても肩をすくめるしかありません。検察の立証、弁護人の反証を踏まえ、どちらに分があるかを判断するだけです。当然、死刑に対して責任の負いようもないのであり、朝日新聞に責任を問われても、「裁判員としての責務を果たした」と答えるしかないのです
それをネチネチと「裁判員が責任が問われる」と繰り返す報道の狙いは何なのでしょうか?
他方で死刑制度に反対する日本弁護士連合会や、一部のメディア(朝日新聞も含まれます)は、「死刑制度の存続に関し、国民の間で議論が深まっていない」と批判しています。しかし、日本弁護士連合会や朝日新聞が死刑制度を議論する公開シンポジウムなどを年に数十回開催し、議論を深めようと努力しているわけではありません。議論を深める努力もせず、ただひたすら「議論が不十分だ」と批判するだけです
ですから、「裁判員制度と死刑判決に関して議論が深まっていない」と朝日新聞が書いたところで苦笑するだけです

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