「北朝鮮のミサイルが原発を攻撃」と警告する政治学者
国連安保理の決議を無視した北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射(人工衛星の打上げと称していますが)後、北朝鮮にいかなる制裁を加えるか、の議論が続いています。制裁という名の警告だけではその考えを改めさせられないのは明らかなのですから、北朝鮮の保有する弾道ミサイルや発射施設、製造工場、研究施設など物理的に破壊するのがもっとも確実でしょう
それとは別に、北朝鮮ミサイル問題に関しては日本国内でもさまざまな発言が飛び交い議論されているものの、散漫でとりとめもない感があります。議論が噛み合わず、互いの主張をぶつけ合うだけで、そこから何かのコンセンサスが生まれるようには思えないです
さて、前置きが長くなりました。今回取り上げるのはダイヤモンド・オンラインに掲載されている元関西大学教授の手になる「北朝鮮のミサイルと原子力発電所再稼働」について論じたものです。長文なのでその冒頭部分だけ引用します
北朝鮮ミサイルの脅威の中で原発再稼働は許されない
北朝鮮のミサイル発射の“脅威”の中で原発再稼働が問われないという不可解去る2月7日に北朝鮮が人工衛星として発射した事実上の弾道ミサイルは、射程距離において1万2000kmに及ぶとされる。「水爆実験」の実施をも踏まえるならば、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に大きく踏み出したとみて間違いないであろう。かくして世界は、「金正日より残虐」といわれる独裁者が核兵器を保有するという悪夢に直面しようとしている。
こうした核の脅威に対し、歴代政権は、日本の安全保障は最終的には米国の「核の傘」によって担保されるとの立場を強調してきた。ところが、その米国において、過激極まりない言動で一過性の候補とみなされていた共和党のトランプ候補が「最終的に大統領の座を手に入れる可能性を否定することはできない」(『フィナンシャル・タイムズ』2月16日)とも指摘される状況となってきた。
仮にそれが現実のものとなれば、日本の安全は、米国の最高司令官として「核のボタン」を握る“トランプ大統領”の裁量に委ねられるといった、それこそ悪夢のような事態を迎えることになる。
ところで、北朝鮮のミサイル発射に関し、政界でもメディアでも全く論じられない問題がある。それは、原発再稼働との関係である。
安倍政権は北朝鮮のミサイル発射に備えて1月28日に破壊措置命令を発したが、その翌29日に関西電力高浜原発3号機が再稼働した。本来ならば、福井県高浜町という、日本海を挟んで北朝鮮と向かい合う町で原発が再稼働した問題を、北朝鮮のミサイル発射と関連づけて正面から問い直さねばならないはずである。
なぜなら、政権として集団的自衛権の解釈変更に踏み出すことを宣言した2014年5月15日の記者会見において安倍首相は、「北朝鮮のミサイルは、日本の大部分を射程に入れています。東京も大阪も、皆さんの町も例外ではありません」と、その脅威を煽っていたからである。とすれば原発も「例外」であるはずはなく、それどころか、北朝鮮の指導部が真に日本に大打撃を与える“邪悪な意図”を持っているならば、間違いなく原発をターゲットにするであろう。
(以下、略)
元関西大学教授との立場からすれば知識人なのでしょうが、北朝鮮の弾道ミサイルに関する誤解があるように見受けられます
北朝鮮の弾道ミサイルは打ちっぱなしの慣性誘導であり、GPSを利用して標的をピンポイントで狙う精密誘導式ではありません
ですから、日本海側に散在する原子力発電所に向け弾道ミサイルを発射しても、命中させるのは困難です。東京を狙って発射すれば、23区内のどこかに着弾するレベルの話であり、霞が関の官庁街を直撃させるほどの精度はないのです
そのため元教授はとんでもない思い違いを書いています
省略した部分では、「災害専門部隊を派遣するのであれば、北朝鮮のミサイルがルートを外れて、稼働中の鹿児島県川内原発に落下する事態に備えるべきであったろう」と書いています
今回の弾道ミサイルが川内原子力発電所に着弾する可能性など皆無に近いのですが、それが理解できないのでしょう
警告を発したり、日本政府の対応を検証するのは結構ですが、基礎知識を欠くあまりトンデモな発想に走るのはいただけません
そしてもっとも大きな思い違いは、「北朝鮮が日本の原子力発電所を攻撃したら、日本は勝てない。負ける」との思い込みでしょう
確かに原子力発電所を攻撃されたならば、甚大な被害が出ます。だからといって、日本政府は北朝鮮に全面降伏したりはしません。国民の大多数も、北朝鮮に降伏すべきだとは思わないはずです
つまり北朝鮮は原子力発電所を攻撃し破壊しても勝てないのであり、かえってアメリカによる報復のための軍事行動の口実を与えてしまうことになります
筆者である豊下楢彦元関西学院大学教授は、それなりに著名な国際政治学者だそうですが、どうにも事態を読み誤ったまま自説を展開している風に映ります
もちろん日本の国内にもさまざまな意見があり、「だから北朝鮮を挑発するべきではなかったのだ」と言い出す人もいるのでしょうし、「戦争などすべきではない。北朝鮮と和解するべきだ」と主張する政治家もいるのでしょう
ですが、国民の多くは「何するんじゃゴラァ」と怒るのは確実です
日本は平和国家であり、憲法の制約があるから北朝鮮にても足も出せない、などというのは単なる思い込みであり、国民を守るためならそんな制約など無視して行動するのは十分に可能です。「北朝鮮側が一方的に攻撃し、日本には反撃する術がまったくない」などという前提そのものが間違っており、憲法を守るため座して死を待つなど本末転倒もよいところです
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