中国の新作アニメはまたしても「西遊記」
中国ではこれまでに何度も「西遊記」を題材にしたアニメーションが作られており、「またか」という印象しかありません
今年の夏に公開された劇場版3Dアニメーションの「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」が大ヒットし、中国以外の国でも上映が決まった、と報じられています
中国のアニメーション産業にとっては明るい話題なのでしょうが、日本で関心を抱く人はほとんどいないと思われます
2015年11月8日、中国のアニメ映画「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」が、すでに世界60カ国・地域と版権契約を結び、中国発の3Dアニメとしては過去最高の記録を樹立した。新浪が伝えた。
中国で今年夏に公開された「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」は、興行収入が9億5000万元(約184億円)を突破。2011年公開の「カンフー・パンダ2」の記録を抜き去り、中国で最も売れたアニメ映画となった。日本でも先月、東京・中国映画週間で上映されて好評を博している。
この大ヒット作がこれまでに、世界60カ国・地域と版権契約が結ばれ、中国産アニメとしては過去最高の記録を打ち立てた。現在までの取引額は400万ドル(約5億円)に到達している。今月から公開予定の米国では、映画雑誌「SCREEN」や、アニメ専門誌「 Animation Magazine」のカバーを飾っている。
「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」は、三蔵法師の前世となる少年・江流児と、五行山の岩の中から500年ぶりに解き放たれた孫悟空による、友情と冒険の物語。
「西遊記」の物語が知られていない国や地域でも、娯楽作品として十分に楽しめるストーリーとなっている。
(レコードチャイナの記事より引用)
これまでに数多く作られてきた「西遊記」とはどう違っているのでしょうか?
動画をまずは御覧ください
The theme song of Monkey King: Hero is Back / CUG: King of Heroes
全体は分かりかねますが、上の動画を見る限り孫悟空は陰りのあるヒーローとなり、従来の万能にして無敵のキャラではないようです
従来の西遊記であれば、孫悟空は多少はお馬鹿で調子者ではあるものの、無敵の強さを発揮するヒーローとして描かれてきたように思います
そうした既視感のあるヒーロー像を捨て、三蔵法師の前世である少年との縁(えにし)を描くことで、孫悟空の内面を描こうとする工夫が目につきます。これまでの中国アニメの凡庸な表現を捨て、随分と進歩したものだと評価できます
中国のアニメが日本に追いつき、追い越すと言われて10年くらいになりますが、ようやくストーリー構成、演出面でも成長したと言えます。ただ、3D画像をぐるぐると動かそうとするカメラワークは無駄であり、酔ってしまいそうです
技術的に「どうだ、この映像はすごいだろう」と自慢したいのでしょうが、視聴者にすれば迷惑です。もっと安定した画を見せた方がよいのでは?
もちろん、これで日本のアニメに追いついたとは思えませんし、超えたとも思えません。やはり「西遊記」という物語の枠にはまったままであり、限界なのでしょう
宮﨑駿なら孫悟空と三蔵法師がそれぞれ目指す仏道なり、未来の相違と葛藤に焦点を絞り、「何のために生きるのか?」を問うて「西遊記」を超える物語を描き出すのでしょう
押井守なら従来の孫悟空像を否定し、ヒーローではない孫悟空の苦悩や迷い、逡巡を描くことで、西域への旅を内面への旅として表現するのかもしれません
庵野秀明なら妖怪として生まれた孫悟空が、他の妖怪との闘い繰り返す中で妖怪という宿命を超えた境地へ至る可能性と挫折を描くのでしょう。もはやそれは「西遊記」ではなく、まったく別の物語となっているはずです
しかし、中国のアニメーション制作者は、「西遊記」という枠を壊してまで大胆に物語を作り変える勇気はないのかもしれない、と感じました
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