名張毒ぶどう酒事件奥西死刑囚が病死
日本では「冤罪」という言葉に特別な思い入れを抱く人が少なからずいます
ある日突然、善良な市民が犯罪の嫌疑で逮捕され、自白を強要され、死刑判決を受けるというドラマじみたケースを思い描き、感情移入するためです
日本を代表する「冤罪事件」とされるのが、「帝銀事件」とこの「名張毒ぶどう酒事件」でしょう
「名張毒ぶどう酒事件」で5人を殺害したとして死刑判決を受けた奥西勝死刑囚が病死した、と報道されています。以下、時事通信社の記事を引用します
「名張毒ぶどう酒事件」で殺人罪などで死刑が確定し再審請求中だった奥西勝刑囚が4日午後0時19分、肺炎のため収容先の八王子医療刑務所(東京都八王子市)で死亡した。89歳だった。1969年の控訴審で一審無罪判決が破棄されて逆転死刑となり、身柄を拘束されてから46年。その後、最高裁で確定したが、無実を訴え続けていた。
特別面会人の稲生昌三さん(76)によると、奥西死刑囚の妹に同日午後、死亡の連絡が来た。2人は鈴木泉弁護団長らとともに同日中に八王子医療刑務所に向かい、5日には名古屋で記者会見を開く意向という。支援団体からも声明が出される見込み。
61年3月28日夜、三重県名張市の公民館で開かれた地区住民の懇親会で、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡。妻と交際相手を亡くした奥西死刑囚が「三角関係の清算のためにやった」と自白し逮捕されたが、起訴直前に否認に転じた。64年に一審津地裁は無罪としたが、名古屋高裁が死刑を言い渡し、72年に確定した。
その後再審請求は棄却され続けたが、第7次請求審で名古屋高裁は2005年、「状況証拠から奥西死刑囚が犯人と推認できず、自白の信用性に疑問がある」として再審開始を決定。しかし同高裁の別の部が検察側の異議を認めて決定を取り消した。最高裁は審理を差し戻したが、同高裁は12年5月に再び開始決定を取り消し、最高裁も改めて弁護側の特別抗告を棄却。第9次再審請求で争っている。
奥西死刑囚は12年5月の開始決定取り消し後に熱を出し、名古屋市内の病院に入院。翌6月に八王子医療刑務所に移送されていた。
この事件については以前にも当ブログで取り上げました。山間部の農村という極めて閉鎖的な人間関係の中で、既婚者である男女がそれぞれ不倫関係を持つという特殊な事情がありました
18世帯の小さな集落でありながら、おそよ十数組の不倫カップルが存在していたのが警察の捜査で明らかになっています
つまりそれぞれの夫婦が他の夫婦と不倫関係を持ち、複雑極まりない愛憎関係が存在していたわけです(奥西死刑囚自身も、その妻も別の夫婦とそれぞれ不倫関係にありました)
となれば、奥西死刑囚以外の誰かが殺人を企てた可能性もありえます。ただし、村の住人以外がふらりとやってきて、偶然、公民館の懇親会用のぶどう酒に農薬を入れたとは考えられませんので、犯行は村の住人に限定されます
この事件では田舎の警察が昔ながらの捜査方法で、怪しい人間を引っ張ってきて自白を迫り、犯人と特定するに至りました。証拠固めを十分行わなかったがゆえに、警察の捜査に数々の疑問が浮上しています
当時、村の住人の反応として、「こんな真似(毒ぶどう酒で無差別に人を殺す)をするのは(奥西)勝しかおらん」との意見があった、と書き添えておきます
結局、再審を開始するかどうかの裁判を延々と繰り返して時間が経過し、再審にまで辿りつけず、奥西死刑囚の病死で幕を閉じた格好です
裁判所としては死刑判決を下した裁判官の面子、裁判所の権威を傷つけたくなかったので、再審決定を拒み続けたように映ります
だからといって、この事件が冤罪であったとまで断定するような根拠は自分も持ちあわせていません
しかし、早い時点で再審を決め、検察側と弁護側で徹底的に立証・反証して審理を尽くすという選択もあったのではないか、という気がします
「冤罪」を取り上げた本が数多く出版されているのですが、その多くは再審による無罪判決獲得で勝利というカタルシスを強調するものです。しかし、「冤罪」の嫌疑が晴れたとしても、真犯人が逮捕されるに至ったケースは稀であり、事件としては何も解決していません
この名張毒ぶどう酒事件でも、「奥西死刑囚が犯人でないとしたら誰が犯人なのか?」という根本的な謎が残されたままになっています
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