神戸事件元少年Aは「絶歌」で何をしたかったのか?
神戸連続児童殺傷事件の犯人である酒鬼薔薇聖斗こと、少年Aが太田出版から「絶歌」を出版し、初版10万部に増刷5万部を加えるほどの売り上げになったと言われています
しかし、被害者遺族に事前に出版の許可を求めなかったこと、遺族から出版に反対する声があったにも関わらず出版を強行したこともあり、「絶歌」は批判を巻き起こしました
この批判を苦々しく思っているのは、著者である元少年Aでしょう
印税としてまとまった金は手に入れたものの、おそらくは彼が一番手に入れたかったものは遠ざかってしまいました
それが何であるかについて考察するのが、本稿の目的です
その前に月刊「創」の篠田博之編集長が、「絶歌」で批判を浴びた理由について書いてしますので、紹介します。全文は下記のアドレで確認願います
篠田博之が考察 『絶歌』への反発はなぜこれほど広がったのか
(前略)
というのも、『絶歌』の構成自体が、元少年に医療少年院でいったいどういう治療がなされたかほとんど書いていないし、それゆえ彼自身が自分の犯した罪についてどう向き合い克服したのか、あまり書かれていないからだ。恐らくそのことも、今回の本が大きな社会的反発を招いた一因だと思う。
例えば元少年Aは、自分の犯した2つの殺人については直接的な記述をすっぽり省いている。彼なりの遺族への配慮なのだろうが、一方で、自分がその殺人行為に突き進んでいく過程での猫殺しやナメクジ解剖については詳細に記述している。特に猫殺しについての描写は、人によっては読むに堪えない部分だろう。それを割愛してしまっては、自分がなぜあの犯罪に突っ走ったか何も説明しないことになってしまうという判断なのだろうが、気になるのは、そうは言ってもその描写が事細かで、書いている者の痛みが感じられないことだ。一見すると、その行為を肯定的に描いているようにも見える。
(後略)
告白手記として読んだつもりが、事件の核心部分をぼかされていたのではがっかりもしますし、失望もします
結果として読者が、「本当に反省しているのか」と疑念を抱き、「本を出して金儲けをしたかっただけなのでは」と勘ぐるのは当然でしょう
「絶歌」を出版することを元少年Aは、唯一の自己救済手段と表現しました
幻冬舎に持ち込んだ「絶歌」をフィクションとして出版するか、ノンフィクションとして出版するかで悶着があったと元少年Aは明かしているのですが、実際はどうだったのでしょうか?
本人に言わせれば「絶歌」はノンフィクションであり、「真実をありのままに書いた」と主張しています。何が「事実」で「ありのまま」なのかは本人以外には判断できないとしても、おそらくは「絶歌」の中にはさまざまな装飾、置き換えがあり、事実とは異なった表現が数多く用いられていると考えられます
元少年Aが「自分をかくの如く読者に見せたい」との欲求があるからです
しかし、残念ながら読者の多くは、元少年Aの思い描いたイメージどおりには受け止めようとせず、「絶歌」を批判しました。もちろん、売れたのは15万部ですから、世間の反響の大きさを考えると、読まないまま批判している人が圧倒的に多いわけですが(自分もその1人です)
こうして元少年Aは、出版前に膨れ上がっていた期待を裏切られたと推測します
勝手に自己救済と決めつけ、「絶歌」によってその文学的才能が多くの人から称賛されると自惚れていたのでしょう
あるいは真摯に自己を見つめ、自分の言葉で語ろうとする受難者のごとく称賛され、いまどきの若者には珍しい求道者として尊敬される姿を夢見ていたのかもしれません
どちらにせよ、元少年Aが勝手に思い描いていただけであり、世間は彼をそう簡単に称賛しなかったのは当然です。が、元少年Aにはこの冷淡な反応が納得できなかったのでしょう
元少年Aの頭のなかでは、「絶歌」が30万部も40万部も売れ、続編出版の依頼
やら取材の依頼が殺到し、あたかも芥川賞候補として盛り上がった又吉直樹のごとき扱いを受けるはずだったのかもしれません
繰り返しになりますが、元少年Aが事件について語るのを自分は批判しません。むしろ何らかに形で(手記であれ、創作としての小説であれ)、事件について語るの彼の責務だと思います
ですが、今回の「絶歌」出版の経緯は無理押しすぎ、出版前から批判を浴びる形となってしまいました。出版社ならば、プロとして世間の反発を十分予想できたはずなのに、出版を強行したのは解せません
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