元少年A「絶歌」を批判する適菜収(哲学者)

今年上半期、話題になった本は又吉直樹の「火花」と、神戸連続児童殺傷事件の犯人である元少年Aこと、東慎一郎の「絶歌」の2冊でしょう
遺族の反対を無視し、印税目的で「絶歌」を出版に動いた東慎一郎に批判が殺到したわけですが、本人はそんな世間の批判など関心の範囲外、なのだと思われます。「いくら印税が入るか」しか興味が無いのでしょう
さて、世間一般の反応としては「話題の本だから読んでおくか」と関心を示す人もいるのでしょうし、「あの事件の犯人が書いたのだから何らかの真実がそこにあるのかもしれない」と期待して手に取る人もいるのでしょう
実際、どれだけ版を重ねたのか、印税はいくらなのか、版元の太田出版は明らかにしていません
それでも20万部~30万部が刊行され、少なからぬ人が手に取り目を通したものと思われます
ただし、この手の「犯罪者の告白手記」には嘘が多く、自己弁護や欺瞞、装飾が混じっているのは指摘するまでもありません。告白手記だからすべて真実、などと思い込むのは大間違いです
さて、今回は週刊新潮7月2日号に掲載された、哲学者適菜収の論評を引用します。論評とはいっても適菜収は「絶歌」を読んでいないのでしょうし、購読するべきではないとの立場で発言しています


「我々の世代が抱え込まなければいけない現代社会の闇である」
オウム事件の時も、こういった類(たぐい)の解説をして事件に意味を付与し、評論したがる訳知り顔の人がいました。重大事件が起きる度に、そういう人たちが現れる。
『絶歌』に関しても、この本に意味を見出そうとする人々が存在しています。しかし、これは倒錯者の自慰行為に付き合うだけの無価値な言動です。
以前から酒鬼薔薇を崇拝する犯罪者が多く存在していたことから分かるように、彼が手記を出せば模倣犯が出るリスクは当然高まるわけで、どう考えても少年Aの本は社会に対してプラスではなく、マイナスに働きます。そもそも、彼は自己救済のために手記を書いたと認めているので、こういった本を評価したり、買ったり、書かせたりした人間は全て、少年Aの卑劣な自己救済に加担していることになる。
また、文学的表現を使った文章を評価している識者も見受けられますが、全く理解できません。少年Aが手記で引用している三島由紀夫やドストエフスキーの作品は、彼が逮捕後に読んだものです。事件自体は性的倒錯者が起こした単なる猟奇的殺人であり、それを遡及的に文学的表現で脚色し、それらしい意味を持たせようと肉付けしているに過ぎません。文学で殺人を描くのは問題ありませんが、現実の殺人を文学で糊塗するのは、やはり倒錯以外の何物でもない。
遺族は彼が世間に向かって何かを発信することを望んでいませんでしたが、彼は手記出版の挙に出た。結果、遺族はもがき苦しんでいます。
この事態が少年Aにも想像できなかったはずはないのに、あえて本を世に送り出す選択をした。つまり被害者や遺族への「二次的攻撃」と見なすことができます。
それを分かった上で出版したということは、この行動が、彼の性的サディズムに繋がっている可能性が否めない。遺族を二重、三重に苦しめることで彼は性的興奮の絶頂の最中にあり、今頃、「してやった」と射精しているかもしれないのです。おぞましいことこの上ない。
(以下、略)


元少年A、東慎一郎にすればこうした「読むべきではない」論の台頭は想定外であり、部数が期待したほど伸びず目論見が外れたことに失望し、怒り心頭なのかもしれません
印税はもちろん、ドラマ化、映画化で数千万円の大金が転がり込む、と期待していたのでしょうから
ならば次はどうするのでしょうか?
又吉直樹にあやかり、小説で芥川賞を狙うのかもしれません
ですが、彼の口を塞いで事件について語るのをやめさせるような真似は論外であり、容認されるべきだとは思いません。世間の顰蹙を買うのは当然ながらも、彼は事件について語るべきだと考えるからです

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