芥川賞決定 又吉直樹と担当編集者
「話題作りのため」と勘ぐった報道もある芥川賞ですが、審査員が作品を評価した上での決定だという部分を忘れてはならないと思います(もちろん、その眼力、識見がすべてだとは言いませんが)
さまざまな報道の中で眼についたのは、雑誌「文学界」の編集部に在籍する女性編集者がいかにして又吉直樹を見出したか、を扱った記事です
長文ですが、なかなか味わい深い内容であり、この作家と編集者の出会いを小説にして描いたら面白いのではないか、という気がします
純文学誌「文学界」(文芸春秋)編集部の浅井茉莉子さん(31)は「火花」の担当編集者で、又吉の文才に注目して小説執筆を依頼した「作家・又吉直樹」の生みの親でもある。伴走した5年間をスポーツ報知に語った。
「芸人・又吉」を「作家・又吉」へと導いた人は、会見場の片隅から壇上にいる新芥川賞作家の晴れ姿を見つめていた。「編集者として震えるくらいうれしいです」。
浅井さんにとっても初めて味わう喜びだった。
2010年、文芸誌「別冊文芸春秋」編集部に在籍していた当時、うわさを聞いた。
「ピースの又吉さんがウチの雑誌を愛読してくれているらしい」。ブログを見ると「別冊文春」への愛をつづっていた。「なんて人だと…。本好きでも、なかなか読まないような雑誌なので…(笑い)」
翌11年、プライベートで訪れたイベント「文学フリマ」に、やはりプライベートで来ていた又吉の姿を発見。あいさつして「雑誌を毎号送らせてください」と伝えると、自宅の住所を教えてくれた。
その後又吉のエッセーや俳句などを読破した。「この人すごい! 面白すぎる!」。
詳細な記憶を文章に再現する力、観察眼に文学的才能を感じた。いてもたってもいられず「小説を書きませんか?」とつづった手紙を自宅に送った。するとメールで「小説は好きですが、書くことにはためらいがあります。多くの素晴らしい作家がいる。自分が書く意味を見つけられません」と返信が来た。「誠実な人だなあ、と」。
なおさらホレて、数か月間にわたって口説きに口説いた。そして12年4月、最初の短編「そろそろ帰ろかな」の原稿をもらった。
13年7月に「文学界」に異動したことを機に「また書いてください!」と依頼した。又吉からは高校時代の話、恋愛話などの提案もあったが「今いちばん考えていることを書いてほしい」と伝え、受賞作の構想が生まれた。「打ち合わせは居酒屋の個室、深夜のカラオケボックス…。会社にも来てくれて」。明石家さんまとキャバクラに行ったこと、観月ありさの誕生日会に行ったことなども、たまには話してくれた。
そして、ある日「火花」と名前の付いた縦書きのワードファイルでメールに添付され、送られてきた。一読し「コレが載ったらウチの雑誌は完売するな」と確信しつつ、編集者として意見を伝えた。不要なシーンはカットし、登場人物を加え、4、5回と改稿。
又吉は掲載の直前までゲラを真っ赤にした。
浅井さんは言う。「又吉さんによって純文学は活性化しましたし、純文学を読むことへの憧れが一般的な読者にもまだ残っていると教えられました」。最近、又吉に告げられた。「昔は40歳ぐらいで死ぬんじゃないかと思ってた。でも、今は長生きしたいです。ずっと小説を書いていきたいから」(北野 新太)
編集者の才覚が作家を見出し、世に送り出すというのはありふれた話なのですが、やはりそこにはワクワクするドラマが感じられます(フジテレビあたりがドラマ化するとグダグダの内容にしてしまうのでしょうが)
当然ながら又吉直樹も芥川賞受賞後の2作目を出すべく、担当編集者と議論を積み重ねているのでしょう
2011年に第144回芥川賞を「きことわ」で受賞した朝吹真理子は、まだ受賞後の作品を発表できないでいます(何を書いても編集者がダメ、で発表できない状態なのだとか。それだけ期待値が高い、のでしょう)
同時期に受賞した西村賢太がすでに様々な作品を発表しているのとは好対照ですが、これは作家としての指向性の違いであり、とやかく言うべきではありません
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