佐世保高1女子殺害事件を考える13 審判結果の是非

佐世保市の女子高生殺害事件の少年審判結果についてはすでに触れたところですが、社会を震撼させた事件であるだけにもう少し詳しく書きたいと思い、再度取り上げます
まずは審判結果の概要を紹介する記事から紹介します


長崎県佐世保市で昨年7月、高校1年の女子生徒=当時(15)=が殺害された事件で、長崎家裁は13日、殺人などの非行内容で家裁送致された少女(16)を医療少年院に送致する保護処分を決定した。「刑罰による(再犯の)抑止効果がない。長期間の治療教育で矯正の効果が期待できる」として、検察官送致(逆送)を回避した。
決定理由で平井健一郎裁判長は、少女が神経発達障害の一種で、共感性が欠如した重度の「自閉症スペクトラム障害」であり、素行障害も併発と指摘。「不安や恐怖の感情が弱く、決めたことは迷いなく完遂する非常に特殊な例」とした。
猫を殺すことに満足できず殺人欲求を抱き、制御できなくなったとし、父親に猫殺しが明らかになったため、女子生徒の殺害計画を決意したと認定した。
少年法は16歳以上による殺人は原則逆送としている。事件は少女が16歳になる数日前で、家裁は「刑事罰の可能性が高くなると知っていて直前に実行した」と指摘。遺族が厳罰を望み、「快楽殺人に戦慄を禁じ得ない。いまだに殺人欲求がある」としながらも、「謝罪を述べるなど変化の兆しもある。刑務所では症状悪化の可能性がある。長期の矯正教育と医療支援によって、厳しいが矯正の可能性はある」と判断し、出院後も生涯、対応を継続する必要があると結論づけた。
(産経新聞の記事より引用)


児童の発達障害の専門家である杉山登志郎浜松医科大特任教授は、今回の家庭裁判所の決定について、「自閉症スペクトラム障害は共感性や対人配慮に欠けるなどの症状がみられるが、成績がいい子が多く、気付かれにくい。発見の遅れにつながることもある。ただ、自閉症スペクトラム障害だけでは素行障害にならない。家庭での虐待など、迫害体験が重なっているのではないか。刑務所に行っても良くはならないと思うので、医療少年院送致は納得できる」とコメントし肯定する立場です
他方で、長崎地方検察庁は、「いまだに殺人欲求を抱き続けており、再犯の危険が大きいが、医療(第3種)少年院には最長で26歳までしか収容できない。家庭裁判所もその点を十分に考慮した上で判断されたはずであり、その当否を当庁がコメントする立場にない」と否定的なコメントを発しています
自閉症スペクトラム障害の治療例については目下調べているところです。この症状はいわゆる生来のものであり、治療は決して容易なものではありません。ただし自閉症スペクトラム障害だからといって犯罪に結びつくわけではなく、この加害者である少女をして残虐な殺人に至らしめた原因・事情は別のところにあると考えるのが妥当です
さて、長崎地方検察庁のコメントにあるように、刑事罰(懲役15年くらい)を想定した有識者の意見も前回紹介しました
しかし、刑務所に15年収監したとして本格的な治療ができるかどうか、検察庁も大学教授もそこのところを分かっていません。通常の刑務所であれば懲役受刑者には定役を科すのが原則なので、刑務作業に従事させるのが最優先です。治療は二の次(生命に関わる疾患ではないので)という扱いです。これでは15年服役させても何も変わらないでしょう
医療刑務所に収監するという選択肢もあるのですが、覚醒剤の後遺症などを抱える受刑者の治療例は豊富だとしても、自閉症スペクトラム障害という特殊な例の治療は未知の領域であり、どこまで取り組めるかは分かりません
ですから、刑事罰を課して長期間収監すればよいというものではないのです
刑務所では刑期を満了すれば更生していてもいなくても出所させるのであり、これでは長期間拘禁して社会から隔離するという意味しかないとも言えます
医療少年院での治療と、26歳で退院した後の継続的な治療の取り組みに期待するという今回の家庭裁判所の決定は、実務的な面から考えれば妥当な決定だと受け止めます

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