佐世保高1女子殺害事件を考える12 医療少年院送致

佐世保市で高校1年生の少女が殺害された事件について、長崎家庭裁判所は加害者である少女を医療少年院送致とする決定を下しました
少年審判の場合、被告に当たる少年側は決定を不服として抗告の申し立てができますが、検察側は直接審判に関与していませんので、家庭裁判所の決定に不服を申し立てる機会はありません
したがって今回の長崎家裁の決定は覆らないのであり、加害者少女の医療少年院送致が最終的な決定となります
家庭裁判所が医療少年院送致を選択するのは予想できたわけであり、何ら唐突なものではありません(当ブログでも、そう書きました)
が、これを疑問視する意見はあります
産経新聞では元最高検検事の奥村丈二中央大法科大学院教授(刑事法)らの意見を掲載しています


平成13年施行の改正少年法は少年犯罪の凶悪化・低年齢化を受け、「罪を自覚させ、犯罪に応じた処罰を受けることが真の更生につながる」として刑罰の対象年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げ、人命にかかわる16歳以上の犯罪を原則逆送と定めた。その後も少年法の精神は、時代とともに保護主義から厳罰主義へシフトしてきた。
奥村教授は「刑事裁判で少年が被害者の深い悲しみや怒りに触れることで、少年は罪の重さを初めて自覚できる。その過程を奪った家裁決定は、新たな少年法の精神に反する」とする。
学校法人同志社の大谷実総長(刑法学)も「検察官送致して精緻な審理ができる刑事裁判を受けさせるべきだった。その上で、医療刑務所や指定の精神科病院への入院などの選択もできたはずだ」と指摘する。
(中略)
少年犯罪の被害者遺族からは、非公開の少年審判でなく、公開の刑事裁判による真相解明の機会が閉ざされたことへの批判の声もある。
一方、少女が共感性が欠如した重度の「自閉症スペクトラム障害」であることなどから、少年法や精神医療の専門家の間では治療を優先した家裁の判断に理解を示す声が強い。
(以下、略)


奥山教授の意見ですが、今回の少年審判には被害者の父親も出廷して意見を述べる機会が与えられており、「少年が被害者の深い悲しみや怒りに触れる機会を奪った」との指摘は誤りです
また、「公開の刑事裁判による真相解明の機会が閉ざされた」とする被害者遺族の声はもっともな意見です。しかし、裁判は真相解明の場ではないのであり、これは誤解です
裁判は検察側の立証に弁護側が反論する場であり、必ずしもそこで真相が解明されるわけではなく、裁判官がどちらの主張に分があるか判断するシステムです
したがって今回のような事件は公開の場で裁判をしても、被告である少女が供述を拒んでしまったら真相が明らかにするなど不可能でしす
検察側が少女の犯行の背景や動機など憶測した上で仮説を並べ論告求刑したところで、被害者遺族が納得できるような真相に辿り着くのは無理でしょう
もちろん家庭裁判所の側が、審判結果について被害者遺族に対し説明する必要はあると考えます
長くなりましたので、続きはまた別の機会に書きます

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