佐世保高1女子殺害事件を考える10 家裁の判断は?

名古屋大学の女子学生による殺人事件に言及したところですが、もう一つ気になっている長崎県佐世保市での女子高生殺害事件はどうなっているのでしょうか?調べてみました


長崎県佐世保市で昨年7月、高校1年の女子生徒=当時(15)=が同級生の少女(16)に殺害された事件で、長崎家裁(平井健一郎裁判長)は17日、鑑定留置を終了し観護措置を決定した。観護措置の期限は最長で7月17日まで。
少女は今年1月、殺人などの非行内容で家裁送致され、家裁は2月23日から鑑定留置し、5月8日に期限を延長していた。少女は観護措置決定を受け、鑑定機関から長崎少年鑑別所に移送された。家裁は今後、鑑定結果などを参考に少年審判を開き、刑事裁判を受けさせるべきか判断する。
送致前に長崎地検が医師に嘱託した精神鑑定では、精神障害などの確定診断には至らず、刑事責任能力に問題ないと判断されていた。
(時事通信の記事より引用)


長崎地検が鑑定留置(精神鑑定)を昨年夏に実施しており、その後でさらに長崎家庭裁判所の判断で鑑定留置が行われたわけです。異常な事件だけに慎重になるのは分かりますが、事件の処理が長期化するとともに、それだけ費用もかかります
精神鑑定1回につき、70万円から90万円ほどかかり、それは国費で負担します
おそらく1回目の精神鑑定は精神障害の有無、責任能力に重点を置いて行われたのでしょう。しかし、家庭裁判所の方はそれでは不十分だと見なし、犯行の動機や背景に踏み込んだ所見を求め、再度の精神鑑定を実施したと考えられます
これは地方検察庁が起訴できるかどうか、の判断材料として精神鑑定を実施するのに対し、家庭裁判所が容疑者である少女の処遇(保護処分か刑事処分か)を視野に置いて精神鑑定を求めるという立場上の違いによるためです
上記の記事からすれば、長崎家裁は7月17日の観護措置期間終了までに少年審判を開き、この事件についての決定を下さなければなりません
弁護側は最初の精神鑑定結果を基にした意見書を家裁に提出しており、医療少年院送致を求めています
この事件のケースを考える上で思い起こすのは、神戸連続児童殺害事件です。犯人が刑事処分の対象とならない年齢のため、医療少年院送致になりました。さまざまな批判はあったものの、この措置は一定の成果はあったと見なされています
本件でも容疑者である少女を医療少年院送致とし、相当長期間の処遇(医療少年院の収容期間は家庭裁判所の許可で26歳まで延長可能)に付す可能性が高いと予想します
さて、本事件に関してはメディアがさまざまな有識者の見解を紹介し、犯行動機や殺害の理由に関する推測を語らせています
不可解な事件の結果(殺害、遺体の切断)だけを示されれば、誰もが理解不能なまま不快な心証を引きずる結果に陥ります。そうした状況を打開するため、一定の解釈(たとえそれが憶測であっても)を人は求めるわけです
もちろん、裁判官や検察官といった事件の処理を扱う立場にある人も、なぜこの事件が起きたのか筋道を考える必要があり、複数の専門家の意見を参考に判断するのは当然です
メディアが紹介した専門家の見識の1つを紹介しておきます
週刊誌「女性セブン」の2014年8月14日号に掲載された記事です


A子の松尾さんに対する凶行に強い憎悪を感じるというのは、医師で作家の米山公啓氏だ。
「一般的に感情が高ぶって相手を殺すってことはあっても、相手を切断するってことはよほどのことがないかぎりなかなかそこまではしないでしょう。被害者への一方的な嫉妬や恨みを募らせ、計画を立てたのかもしれません。猟奇的な側面は、過去の事件やアニメなど、残虐なものの影響を受けた可能性が高い」
また一部では、A子を知る人たちが「ガッチリしたボーイッシュな女性」「ちょっと男の子っぽい。眉毛も太い感じで、化粧はしていない」「自分のことを“ぼく”と呼んでいた」という証言から、同性愛志向があったのではないかとの見方もある。
「この世代の女子同士は親密になると、ふたりだけにしかわからない心を許しあう世界を作り上げることがよくあります。他人からするとたいしたことでなくとも、当人同士で激しい憎しみになることもあるんじゃないでしょうか」(前出・米山氏)


2014年7月に発生した事件についてコメントを求められ、語っているのですから、十分な判断材料があったわけもなく、思い込みや先入観にとらわれてしまうのは仕方のないところです
女子高生の同性愛的な感情のもつれから憎悪をふくらませ、殺害に至ったとの解釈は突飛ではありませんが、妥当とは思えません

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