「無期懲役でも15年で仮釈放」とデマを流す弁護士

いつの頃からなのか確かめようもないのですが、裁判で無期懲役の判決を受けても、「実際に服役しているのは15年くらいで、あとは仮釈放になってシャバに戻れる」といったデマが広く流布されています
記憶にあるのは山口県光市で起きた母子殺害事件の犯人福田孝行が、「無期はほぼキマリ、7年そこそこに地上に芽を出す」と知人宛て手紙に書いていたのが露見し、「未成年者の場合無期懲役判決を受けても7年で仮釈放になるのか?」との怒りが世間一般に渦巻いた件です。これもでたらめな話であり、いかに犯行時未成年者であっても7年で仮釈放になったりはしません
さて、このようなデマを信じ込んでいる人が少なくない状況で、それに輪をかける事案が起きています
テレビ番組「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」の中で、コメンテーター役の大渕愛子弁護士が「無知懲役でも15年で仮釈放」と説明し、大顰蹙を買っていると報じられています
テレビでお馴染みの人気弁護士が発言すれば、信じてしまう視聴者もいるわけであり、困ったものです
以下、弁護士ドットコムの記事から一部を引用します


番組では、千葉県柏市で2014年3月に起きた「連続通り魔事件」の裁判員裁判の判決が取り上げられた。
2人が死傷したこの事件で、千葉地裁は6月12日、強盗殺人に問われた男性被告人に対して、無期懲役の判決を下した。判決直後、被告人は法廷で拍手をして、「これでまた殺人ができる」などと悪態をついたという。
この判決の紹介を受けて、番組の出演者の薬丸裕英さんが「無期懲役ということは、だいたい15年くらいで仮釈放になるわけですよね。こわいですよね」と発言。
そこで司会の東野幸治さんがコメンテーターとして出演していた大渕愛子弁護士に「15年ですか?」と話題をふった。
すると大渕弁護士は「そうですね」と回答。さらに、「刑務所で問題なく過ごせば、15年くらいで仮釈放になって、その後、問題なければそのまま社会で生活してしまうんですけども。ここまで『将来殺人ができる』と言っているんですから、慎重に刑務所のほうも見て、仮釈放は認められないと思いますけどね」と真面目な顔つきで話したのだ。


上記の記事では、刑事事件に詳しい弁護士の反論を載せています。法務省の統計を引用し、無期懲役受刑者の収容期間が30年を超えている事実を指摘し、15年で仮釈放になる説を否定しています
しかし、世間に広がってしまったデマはそう簡単に打ち消せないのでしょう
大渕愛子弁護士も軽率です。番組でこの話題を取り上げると事前に分かっていたはずであり、調べる時間もあったはず
デマの出処を憶測すれば、仮釈放制度の運用を定めた更生保護法に、「有期刑の場合刑期の3分の1以上経過した者。無期刑の場合服役期間が10年以上経過した者」が仮釈放の対象になると定めています
これを曲解して、「無期懲役受刑者でも15年服役していれば仮釈放」とのデマが形成されたと考えられます
付け加えると、大渕弁護士は「慎重に刑務所のほうも見て、仮釈放は認められないと思いますけどね」と発言しているのですが、仮釈放を認めるか認めないかの判断は刑務所が行うのではなく(刑務所は法務省矯正局)、法務省保護局の組織である更生保護審議会が決定します
仮釈放はあくまで「仮」ですから、刑務所を仮釈放された後、万引きとか無銭飲食で有罪となれば仮釈放は取り消され、残りの刑期を服役しなければなりません

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