酒鬼薔薇聖斗の言い分 「絶歌」を巡って
神戸連続児童殺傷事件の犯人である酒鬼薔薇聖斗の手記「絶歌」が出版され、各メディアが取り上げています。好意的な論評は皆無という状態で、特に芸能人の手厳しい反応をメディアは好んで取り上げ、紹介しています
芸能人だから何の見識もないと切り捨てる気はありませんが、有名芸能人の発言となれば記事に注目が集まるのは当然であり、いわば世間一般を「釣る」ためにやっているのだと醒めた目で眺めるだけです
さて、産経新聞の記事では手記に託した元少年Aの思いを以下のように紹介しています
「過去と対峙し、書くことが唯一の自己救済」と理由説明
神戸市で平成9年に起きた連続児童殺傷事件の加害男性(32)は10日に発売された手記「絶歌」(太田出版)で、「自分の過去と対峙(たいじ)し、切り結び、それを書くことが、僕に残された唯一の自己救済」だったと理由を説明していた。
手記は男性が医療少年院に入院するまでと仮退院以降の生活についての2部で構成。1部では犯行に至るまでの性衝動や動物への残虐行為などを振り返っている。
2部では16年の仮退院後、親元に戻らず更生保護施設に入所し日雇いアルバイトをして過ごしたことや、溶接工などの仕事をして生活したことを通じて「人間が『生きる』ということは(中略)かけがえのない、この上なく愛おしいもの」だと感じるようになったと記している。
巻末では、遺族への謝罪をつづり、被害児童らが「どれほど『生きたい』と願っていたか、どれほど悔しい思いをされたのかを、深く考えるようになりました」と記していた。
殺害された遺族がこの本の出版に抗議し、本の回収を求めているとの報道もあります。が、出版の取り止めや本の回収が実現する可能性はなく、ここしばらくの間は売れ続けるのでしょう。いや、世間の人が買い求め続けると言い換えた方がよいのでしょう
週刊新潮は以下のように、この手記を批判しています
〈おい、ちょっと待ってくれよ。何なんだよ、これは。その筆先から滴(したた)り落ちる、消すことのできない血の匂いを、日々、平穏に暮らす「我々」に不躾(ぶしつけ)に嗅がせようとする。そんな権利を、誰が「君」に付与したのか(中略)読者はきっと、救いのなさに吐き気を催す〉
過激な表現ですが、そのとおりでしょう
ただし、本を手にとって読むかどうかの選択は我々に委ねられているのであり、誰もこれを強制的に読むよう仕向けられているわけではありません。ジャーナリストや有識者は仕事上、読まなければならないとしても
当ブログでは繰り返し言及しているように、元少年Aは世間を震撼させた事件について何らかの説明をする責任があるというのが基本的な考えです
それを抜きにして更生などありえないからです
しかし、誰がどこで決めたのかは分かりませんが、元少年Aは本名とは別の名前を名乗り、別人として住み暮らしてきました
ただ年に1回、被害者家族の許へ手紙を送ったと報じられるだけです。その手紙の中身は非公開という条件付きであるため、外へ漏れることはありませんでした
加害者と立場を強いられ、沈黙し、働き、毎月わずかばかりの賠償金を支払うという生活に、元少年Aは嫌気が差したのかもしれません。手記を出せばまとまった金が手に入るのは分かっていたのですから、彼はその可能性に手を付けたと思われます
それで何をしたいのかは不明ですが
もちろんあらためて言及するまでもなく、手記「絶歌」を読んだところで真実などは見えてきません。もっとも他人に触れてもらいたくない心の奥底は隠し、当り障りのないストーリーを書き散らして「自己救済」の気分に浸りたかっただけなのでしょう
精神分析の場では、分析を受ける側(患者)の語りにもちろん耳を傾けますが、分析家が関心を払うのは語られない話の方です。語られない話、言語化されない話、意識化されないエピソードこそ、重要なのだと考えるからです
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