多摩川中1殺害事件を考える5 「ネット私刑」を規制すべしとの声
川崎の中学1年生殺害事件に関連して、「犯人」とされる少年らの実名や顔写真がインターネットで晒され、私刑(リンチ)が横行する事態を懸念し、これを規制すべきとの主張が散見されます
前回に続き、事件そのものからは離れてしまいますが、この情報規制を求める動きについて言及します
取り上げるのは読売新聞に掲載された石川正興早稲田大学社会安全政策研究所所長(専門は刑事政策・少年法)の意見です
無責任な書き込みが晒す、少年法とネット規制の落とし穴
(前略)
最後に、「事件の容疑者と思しき人物を特定した憶測情報のネット掲載行為」との関連で、法治主義について触れておきたい。法治主義の下では、刑罰権を国家が独占する一方で、国家と言えども恣意的な刑罰権行使を認めず、その行使に当たっては罪刑法定主義・法定手続の保障原則からの強い制約を受ける。
他方、法治主義は、国民に「私刑(リンチ)」を認めない。「事件の容疑者と思しき人物を特定した憶測情報のネット掲載行為」は、主権者たる国民が自ら法治主義を破ることにもなりかねない。国民自らが禁止したはずの「私刑」が横行する時代へ後戻りすることに対しては、こうした事態を食い止める手立てを講じる必要があると考える。
この事態を防ぐには、少年法を含む刑事法的対応では不十分である。刑事法的対応は、犯罪とされる事態が起こった場合の事後的処理を中核とするシステムである。このシステムでの事前予防には、おのずから限界がある。結局、今回のような事態を防ぐためには、情報モラル教育のシステム構築が不可欠となる。
インターネットの便利さは、それを日々利用する者が身に沁みて理解していることだが、それは「もろ刃の剣」であり、使い方次第では、法治主義が否定する「私刑」になり得る行為を助長する可能性も孕む。あたかも本年2月4日に、文部科学省は30年度以降に教科化される小中学校の道徳の学習指導要領に関し、「情報モラル」の指導を「留意する」から「充実する」に変更した改定案を公表した。インターネット利用が
法治主義原理の否定になり得る事例も、この「情報モラル指導」の中で取り上げるよう、国に要望する次第である。
いかにも法律の専門家らしい知見と言えましょう
ただ、専門家ゆえの視野の狭さが仇になってしまい、残念ながら現実社会を見据えた上での提言とは言い難いところがあります
「法治主義の下では、刑罰権を国家が独占する一方で、国家と言えども恣意的な刑罰権行使を認めず…」とあるのは教科書どおりの定義なのでしょう
しかし、刑罰権を国家が独占しているとするのはあまりに形式的な解釈です。学校には学校の懲戒権があり、企業は独自の懲戒規定があります。それも含めて広義の法治主義と呼べなくもありませんが、地域社会にも明文化されない懲戒・刑罰の規定(暗黙のルール)といったものがあるのです
同様にインターネット社会の中にも懲戒・刑罰の規定があります。明文化されていないので見えないのですが
前回のブログの記事では、「上村くんのような被害者を出してはいけない、自分の身近なところでこのような悲惨な事件を発生させてはならないとの義憤と自戒の念が根底にあると解釈できます。そしてそんな義憤と自戒の念こそが、社会正義を根底から支える国民の意識だ」と書きました
上記のような法律論議ではこうした「国民の意識」までも「規制の対象」にする危険があります。法治主義が日本の社会を守っているわけではなく、「国民の意識」こそが日本の社会を守っているわけであり、法律が「国民の意識」を縛るなど本末転倒です
さらに記事では「情報モラル教育のシステム構築」の必要性を指摘していますが、これは小中学生を対象としたものであり、世の大多数を占める大人は対象外となるわけで、問題の解決には結びつきません
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