「風立ちぬ」 宮崎駿の思想を論じる中国メディア

中国のメディアが掲載する日本アニメの論評といえば、かなり珍妙なものばかりであり、ネタとして当ブログでも紹介してきたところです
目の付け所がズレていたり、日本の文化をかなり歪めて理解している(見下している)がゆえに、作品をきちんと読み取れないのでしょう
今回は宮崎駿監督の「風立ちぬ」に論評した記事を紹介します

「風立ちぬ」にみる宮崎駿監督の理想と精神

冒頭で、「もし宮崎監督の世界観や思想が好きでなければ、『風立ちぬ』に感情移入するのは難しい。だがこのように凛として自らを表現する勇気は、宮崎監督が人々から敬慕されてきた精神のひとつでもある」と述べています
前にも書いたところですが、「風立ちぬ」を鑑賞し理解するのに宮崎駿の思想を知る必要はありません
「風立ちぬ」は劇場版アニメーションであって、哲学書でもなければ憲法九条改正反対を唱えた論文でもありません
監督である宮崎駿の思想や人生観などとは関係なく、作品そのものを楽しめばよいのです
しかし、このレコードチャイナが掲載している論評は「風立ちぬ」ではなくもっぱら宮崎駿の思想や時代認識に関心を向け、語ろうとします
その狙いは、末文の「宮崎監督は、作品の中の日本の大正末~昭和初期は、現在の日本と『一定の同時代性(相似)を持つ』と指摘する」との部分に現れています
つまりこの劇場版アニメで宮崎駿は、「日中戦争から太平洋戦争へと突っ走る軍国主義の日本と現在の日本が相似している」と警鐘を鳴らしているのだと決めつけたいのでしょう
宮崎駿の考えがどうであるかは不明ですが、戦前の日本と今の日本が似ていると決めつけるのは無茶な主張です(いわゆる左翼陣営の有識者はそう言い続けているわけですが)
つまるところ中国のメディアがこの論評を掲載した狙いは、宮崎駿の新作が関心を集めている→日本は尖閣諸島の領有権を主張するなど領土への野心を強めており、戦前と同じ状況だ→「風立ちぬ」は戦争へひた走った日本を批判し、現代の日本人に警鐘を鳴らす作品だ、との言いたいがためなのでしょう
そうした政治的な思惑はともかく、中段に書かれている堀辰雄とサナトリウム文学の部分は何を主張したいのか、さっぱり理解できません

堀辰雄も同様の精神の持ち主だ。サナトリウム文学(当時の日本の結核療養所を背景に創作された文学)は軟弱と思われているが、本当にそうだろうか?戦争について何も書かなかった彼らは、実はぎりぎりのところでレジスタンスをした人なのではないか?私は多くの時間を費やして、あの時代の優れた二人を混ぜ合わせて、二郎という主人公を創造した。実在の人物をモデルにすることは、宮崎監督のこれまでの作品とは表現手法が大きく異なることを意味し、リアルな描写が目立つ。空想的なキャラクターが登場しないのは、まさに「ファンタジーは制作せず、この変動期にどう生きていくべきかを探し求める」という宮崎監督の意識の表れだ。

堀辰雄の小説を読んだ上でこの記事を書いているのか、疑問です
「実在の人物をモデルにしたからリアルな描写が目立つ」との指摘にも首を傾げてしまいます
「風の谷のナウシカ」では文明崩壊後の腐海をリアルに描いていたわけですし、「もののけ姫」のようなファンタジーであっても森の描写は鮮烈でリアルなものでした
ファンタジーをリアルに描くところが宮崎駿の作風です
「風立ちぬ」で言うならリアルな描写云々ではなく、ドラマを重視したと指摘すべきでしょう
この記事を書いた記者が何者であるかは知りませんが、アニメの論評は不慣れな人物と見て間違いなさそうです
二郎と菜穂子の恋愛には触れないままですし

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