死刑囚からの手紙 月刊「創」の記事を考える1

しばしば死刑囚からの書簡を記事として掲載している月刊誌「創」が、先日死刑を執行された奈良の幼女殺害事件の犯人小林薫死刑囚と、土浦無差別殺人事件の犯人金川真大死刑囚について取り上げています
長文の記事であり、言及したいところもいくつかあるため、当ブログとしてもいくつかに分けて書こうと思います


死刑執行! 小林薫死刑囚と金川真大死刑囚からの手紙


小林薫死刑囚、金川真大死刑囚のついて当ブログは個別に取り上げ、彼らの起こした事件の意味や彼らの人となりについて述べて来ました
この月刊「創」の記事を読んでも、基本的な考えは変わりません
といって同じ内容を繰り返すのでは無駄になってしまいますので、あれこれ補足するつもりです
まず手始めに、月刊「創」の編集者の立ち位置について書きます
ジャーナリストと呼ばれる人たちが世間の注目を浴びる事件の犯人と面会したり、手紙のやり取りをしてドキュメンタリーの形で出版するのは珍しくありません
猟奇的な殺人や不可解な殺人事件など、犯人の実像が見えにくい事件であればあるほど、そうしたドキュメンタリー本や記事の需要が高いのでしょう
ただこれまでに指摘してように、ジャーナリストは往々にして手紙や面会のやりとりにより、自分だけが死刑囚の本音を知っているとか、実像を掴んでいると思い込んでしまい、死刑囚の代弁者のように発言し、記事を書くようになります
精神分析では相手の思慮や思念にとらわれてしまう現象を「転移」という概念で説明しており、分析家は「転移」の扱いについて厳格に指導を受けます
「転移」の概念を説明すると本が1冊書けるほどになるため、ここでは単なる感情移入のレベルを超え、死刑囚の心情を自分に置き換えるほど強い思い入れを体現した状態、と説明しておきます
前置きが長くなりましたが、月刊「創」の記事を読み限り書いてである編集者は「転移」を起こしており、死刑囚の心情を我が事のように受け止め行動しています
ジャーナリストとしての、公正・中立の立場をかなぐり捨て、「死刑囚の味方」という立場でこの記事を書いているのは明らかでしょう
塀の中に隔離された犯罪者たちと接してきた自分の経験から言えば、「ジャーナリストはかくも簡単に騙されるものか」とため息をつきたくなります
騙されるのではなく、自らすすんでその代弁者になろうと欲している向きも多分にあるのでしょうが
月刊「創」の編集者にしても、死刑囚と接する機会は面会と手紙だけです。そうした限定された場で、死刑囚が特定の自分を演出し、自分の本音らしき発言をするのは難しい行為ではありません
逆に、彼らを24時間見守っている拘置所の職員たち相手に特定の自分を演じ続けるのは困難であり、通用しません
ジャーナリストたちは取材活動を通じて、世間一般の人が知らない真実を自分は見出したという優越感に浸りたいのであり、それがゆえ死刑囚の手紙を有難がり、そこに何らかの真実が明かされているのだと決めつけてしまいます
本来、取材対象を前に余計な思い込みは捨て、距離を置くべきなのですが
月刊「創」の編集者は距離を置くどころか、自らすすんで相手の懐に飛び込んでしまっており、そんな取材方法を疑いもしません
死刑囚の演出(それが意図してものであれ、意図せざるものであれ)に踊らされている自身の姿にまったく気がつかないのです
では、次回から記事の中身について取り上げていきます

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