国際プロジェクト「次世代加速器」 日本誘致へ

日米欧各国が実現を目指す次世代加速器「国際リニアコライダー」(ILC)計画について、その建設予定地として日本が有力視されている、と産経新聞が記事にしています
リニアコライダーは東京-横浜間に匹敵する全長約30キロの巨大な直線形(リニア)の加速器であり、地下約100メートルにトンネルを掘り、ほぼ光速に加速させた電子と陽電子を正面衝突させ、未知の素粒子を検出し、その性質を研究しよういう計画です
新年らしい、期待の持てる話題として紹介します


宇宙の始まりの謎に迫る次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の日本誘致を目指す研究者らは23日、都内で記者会見し国内の建設候補地を東北の北上山地(岩手、宮城県)に一本化したと正式発表した。最終的な候補地として残っていた九州の脊振山地(福岡、佐賀県)よりも安定した地盤を評価した。今後、国内誘致を政府に働きかける。
国内誘致を推進する科学者らが構成する「ILC戦略会議」の委員を務める九州大学の川越清以教授は「ILC実現に向けて大きな一歩で、重責を果たせた」と説明した。
同会議が設けた立地評価会議は約半年かけて両地域を比較。土木や建築などの専門家らを交えた議論の結果、北上山地に軍配を上げた。また、研究所を置く中央キャンパスには仙台や東京への交通の便のよい東北新幹線沿線を推奨した。
最大50キロメートルに及ぶ直線の実験装置を設置できる安定した岩盤かどうかが決め手となった。脊振山地の建設候補地はダムや都市部の近くを通り、地形も険しい。活断層にも近く、確保できる場所が制限されるとした。一方、北上山地は比較的なだらかな地形で工事コストが抑えられ、活断層からも20キロメートル離れている。
現在、誘致を表明している国はない。欧米は財政難などの理由で候補地の選定を中断しており、「北上が事実上の世界の候補地」と山下了・東京大学准教授は主張する。日本が誘致を表明すれば実現する可能性が高いとみられる。
(日本経済新聞の記事から引用)


建設費は見込みでおよそ8000億円となり、日本が誘致した際にはその半分を負担する必要があります。となれば、「そんなものに4000億円も金を使うのか?それより福祉を充実させるべきだ」と言い出す人が現れそうです
日本は科学技術立国を目指しているのですから、バラマキ型の効果も定かでない福祉政策に数兆円の金をつぎ込むよりは、リニアコライダー計画のような「期待」の持てる科学技術分野にこそ、投資すべきだと自分は思います
記事によれば、リニアコライダーの建設による経済波及効果を、「東北は30年間で約4兆3千億円と試算」しているのだそうですが、これは取らぬたぬきの皮算用なのでしょう。経済波及効果をできる限り大きく見積り、誘致活動への賛同を呼びかける狙いがあるのですから
さて、話を戻して上記の日本経済新聞の記事だけでは、「なぜ直線型の加速器建設を目指すのか?」との疑問には十分な説明がありません
「直線型加速器の方が円形の加速器より素粒子の性質を調べるのに有利」だと書かれているだけです
その辺りも含め、詳しい説明が2011年のワイアードニュースの記事に書かれていますので、紹介します

震災復興の「加速器」となるか? 宇宙誕生の謎を解くILC計画

CERN(欧州原子核研究機構)の円型加速器は電子ではなく陽子を加速し、陽子同士を衝突させて素粒子を検出しようという仕組みで、必要としているデータを得るのにはかなり効率が悪い、と説明されています
電子を加速し衝突させる直線型加速器は実験の効率としては円形加速器を上回っていますが、微細な電子を衝突させるには極めて精度の高い装置を建設しなければなりません
理論上は可能でも、実用化が相当に難しいと分かります
だからこそ、日本が挑む意義があるとも言えます。精度の高い実験装置を建設し、ナノレベルで調整するノウハウは産業分野にもいずれは反映され、日本を支える技術として役立つものと期待されます

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