押井守監督の「エヴァンゲリオン」批判を考える
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」が興行収入30億円を超える大ヒットとなり、その人気の根強さを示す結果となっています
しかし、アニメーション業界にあって庵野秀明監督の先輩格になる押井守はこの「エヴァンゲリオン」が気に入らないようで、批判をメールマガジンに書いています
その批判の中身について検討したいと思い、取り上げます
大ヒットのヱヴァンゲリヲン「テーマもモチーフもなく、観る価値なし!」 押井守氏が庵野秀明監督をこき下ろす
「テーマやモチーフがないわけだから、作品の落とし所(終結)があるはずはなく、製作者側とファンが望む限り、『エヴァ』は永遠に終わらない、と皮肉とも受け取れる発言をしている」と上記のJ-CASTニュースの記事には書かれています
しかし、永遠に終わらない「エヴァンゲリオン」を描き続けるのもアニメーション監督庵野秀明の業であり、それはそれでありなのだろうと自分は思います
確かに語りはじめた物語を終わらせるのが作者の責任だ、とする考え方もあるのですが、唯一の選択肢というわけではありません
宮崎駿はマンガ「風の谷のナウシカ」をおよそ12年に渡って描き続け(途中での連載中断はあったわけですが)、完結させています。物語を語り終えようとする作者の強い意志があってこそ完結させられるわけで、自分はそこに敬服します
完結させないまま放置するという選択肢もありますし、完結させずに描き続けるという選択肢もあります。あるいはナウシカ以外の人物の外伝を語る方法もあるでしょう
それでも宮崎駿は物語を語り終える決断を下し、完結させたのです
押井守も物語はそうあるべきだ、との考えだと推測されます
一方で庵野秀明は「エヴァンゲリオン」を再び語ろうと思い立ち、取り組んだわけであり、どちらが正しくて、どちらが間違いと決められるものではないと自分は思います
14歳の碇シンジを描き、綾波レイを再び描くことが庵野秀明にとっての責任の取り方だと解釈できます(もちろんコンテツの再利用で儲けようというビジネスの側面は否定しませんが)
押井守が、「はっきりと表現者としての停滞であると確信しております」と言うのは、庵野秀明ならば「エヴァンゲリオン」でなくとももっと面白い作品が作れるはずであり、なぜその才能を新しい作品に向けないのか、との思いがあるからなのでしょう
宮崎駿のように続編を期待する声があってもそれを拒否し、新たな作品に挑み続けるという生き方もあります。が、しかし、庵野秀明なら10年後も再び「エヴァンゲリオン」を描こうとするのではないでしょうか?
それも庵野秀明自身の選択です
視聴者の側にも、永遠に終わらない「エヴァンゲリオン」の世界を周遊し続けたり、14歳の碇シンジの戸惑いや恐れ、怒りや絶望に思いを馳せ続けるという選択肢があってもよいのです
スーパーマンは1938年にコミックとして誕生し、現在でも描かれ続けています
あるいは歌舞伎のように江戸時代から繰り返し演じ続けられてきた芝居もあるわけで、だからといって歌舞伎役者を表現者失格などと決めつけるのは間違いです
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