アジアンカンフージェネレーションの自民党批判

ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアンカンフージェネレーション)」でボーカル&ギターを務める後藤正文さんが衆議院議員選挙の投票日前に、「自民党が徴兵制復活を検討している」との記事をツイッターで紹介し、自民党が政権を握ることへの懸念を表明し、物議をかもしたとJ-CASTニュースが記事にしています
問題の記事は2010年に共同通信が書いたものですが、なぜいまさらこんな記事を引っ張りだして「自民党が勝てば徴兵制復活」などとデマを飛ばしたのかは詳細は不明です

「自民の改憲草案はナチスの全権委任法と同じ」 アジカン後藤、学者の意見引用して主張

当ブログでも以前に書いたのですが、「徴兵制復活」というのはあまりに非現実的な政策です。「自民党が政権を握れば徴兵制復活で軍国主義への道を歩む」と警戒する人たちは、これを既定の事実であるかのように繰り返すのですが徴兵制で若者を軍隊に入れたところで、2年間の兵役期間で1人前の兵士に仕立てるなど不可能です。昔は兵士として未熟な若者にも小銃を担がせ、最前線に送り出したのですが、現代戦においてそんな無謀で無意味な戦術はあり得ません
さらに、今の日本に10万人単位で若者を徴兵し、教育・訓練する場所も設備もありません。前述のように、2年間の義務兵役を課して訓練したところで、現代戦に適応できる兵士に育てるのは無理ですから、予算の使い方としてもはなはだ非効率です。そんなお金があるくらいなら、もっと装備を充実させたり自衛隊員の待遇改善をした方がましでしょう
しかし、「自民党は戦争に国民を動員するため、徴兵制によって若者を洗脳しようとしている」と信じて疑わない人には、どのような説明をしても無駄です
個人的にASIAN KUNG-FU GENERATIONは好きなバンドですが、この稚拙な政治論議には異を唱えざるを得ません
また、「ドイツにおけるワイマール体制崩壊とナチスの台頭」の状況と、今の日本が酷似しているかのような認識も、一方的なプロパガンダであり捏造です
第一次世界大戦の敗北と悪性インフレで疲弊した当時のドイツの状況は、今の日本より数十倍も厳しいものであり、「悪いのはユダヤ人と共産党だ」と国民の大多数が信じて疑わないほど視野狭窄に陥ってしまうだけの事情があったと言えます(だらかといってその考えを肯定したりしませんが)
上記のJ-CASTニュースの記事では法律学者のたきもとしげこの「自民党の憲法改正草案にある『緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる(後略)』これはまさに、全権委任法と同じ効果を持つ、恐るべき案です」との指摘にしても、何を今更という内容です
そんなものは有事法制整備の議論の中でさんざん語られたものです。緊急事態(有事と言い換えてもよいわけですが)の際には、国会の予算委員会を開いて法案の議論をしている時間はないため、内閣の責任において迅速な対応が可能となるよう「法律と同一の効力を有する政令を制定」する権限を明記するものであり、ナチスの全権委任法とはまったく別物です
ナチスを持ち出せば何も知らない一般人でも自民党を警戒するようになるだうと、確信犯的に宣伝しているのでしょう
林健太郎著「ワイマール共和国~ヒトラーを出現させたもの」(中公新書)は、ワイマール体制崩壊からナチスの台頭までを俯瞰した1冊で、入門書として最適です。これを読めば、当時のドイツがいかに疲弊していたか、政治的混乱がひどかったかが分かりますし、日本の現状とはまったく異なっていると理解できるはずです
多忙なミュージシャンの方にも読みやすい新書版なので、後藤正文さんにもおすすめです
思ったまま、感じたままをツイッターで発言するのは構わないのですが、基本的な知識を欠いたままの政治論議はいただけません

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