大和総研の「日中アニメ業界の比較研究」がひどい
シンクタンクと呼ばれる機関の研究レポートといえば、それ相応の見識が披露されており、説得力のある内容を期待するところです
しかし、例外的にまったく中身の無い「小学生の夏休みの自由研究以下」にしか見えない研究レポートも存在します
大和総研の研究員(中国人)が日中のアニメ産業界を比較した研究レポートを発表しているのですが、その中身があまりにひどいので紹介しましょう
日中アニメ業界の比較研究
どこから突っ込めばよいのでしょうか?
研究者は「日本のアニメの人気度と比べて、なぜ中国の作品が好まれないだろうか、以下五つの面において解析したい」と述べているのですが、基礎知識も問題を考察するための理論的な枠組みも持ち併せていないのは明らかです
最初の「沿革発展史」すら、何を紹介し論点にしたいのかが不明です
大雑把すぎて、この沿革史から「中国のアニメーションがウケない理由が浮かび上がっている」と思っているのなら大間違いでしょう
以下、順番にツッコミを入れるのもどうかと思いますが・・・
二、意識観念及び題材
中国のアニメについて、なかなか革新的なものが見られなかった理由の一つは人々のアニメに対する観念がまだ70、80年代のレベルに留まっており、アニメは子供しか見ないものだと見なされていることである。また、アニメ番組も子供向け番組にカテゴライズされ、より広範なターゲット層までに普及できなかった。一方、日本のアニメのターゲット層は概ね12~20歳の青少年である。例えば、名作『エヴァンゲリオン』は完全に年齢層の高い視聴者向けの作品であり、その内容は15歳以下の少年ではなかなか理解できないであろう。
上記五つの面において、日中アニメ産業の差が見られた。中国のアニメ産業は現状の苦境を乗り越えるためには、海外の良い経験を吸収した上、一方的な模倣ではなく、独自なものを作らなければならない。そうすれば、中国もこれからどんどん「中国オリジナリティ」を世界に発信していけるものと確信している。
中国人のアニメの観念が古臭かったからではなく、誰も見たことのない新しいアニメを表現したい、独自のドラマを描きたいという作り手の意欲が欠けていたか、そうした意欲を抹殺していたからでしょう
独自のものを作れば「中国オリジナリティ」を世界に発信していける、と研究者は何か真実を発見したがごとく宣言しているわけですが、その主張に何の中身もありません
13億人もいて独自のものが作れないからこそ、模倣に走っているわけで・・・
そもそも日本のアニメーションに関する分析も不十分であり、「まったく分かっていない人物」だと言わざるを得ません
「エヴァンゲリオン」に関してはさまざまな研究が行われているのですが、この研究者がそれらに触れ理解しているようには見えないのです
三、教育性、経済性及び芸術性
(前略)
一方、日本のアニメの着眼点は経済性であり、製作会社も自主制作(補助金無し)であるため、作品は当然経済性を求めなければならない。視聴率を高めるようにまずは視聴者の心理を捉えなければならないし、内容にしても常に革新を求めなければならない。
アニメも芸術であり、一アニメ製作者として、まず芸術を生み出そうとする自覚を持つべきであろう。教育そのものも、単に常識を伝達するのではなく、芸術を通じて子供に自ら理解してもらうのも良い方法である。
経済性(ビジネス)を重視する日本のアニメについて触れた直後、「アニメも芸術であり、教育の手段だ」と話が飛びます。何の整合性も脈絡もありません。経済性と芸術性をどう両立するか、という問題が横たわっているはずなのに言及する気もないようです。そもそも芸術を気取る前に面白いものを作れ、と言いたくなります
四、製作技術及びキャラクター設計
製作技術では中国も大きな進歩があり、日本と肩を並べるが、キャラクター設計に関しては、大きな差がある。
中国のアニメキャラクターはあまり鮮明的な個性を持っていない。多くの場合、画面上にあるキャラクターは独立的に存在しているもので、人物の表情、目つき及び性格が脚本とうまく合っていないため、視聴者にとって視覚効果を大きく落としてしまう。
一方、日本のアニメキャラクターは表情の処理について非常に特徴的であり、眉毛、目尻及び口元の精細な変化を通じてその人物の表情及び性格を徹底的に現わすことができる。
製作技術では中国も進歩していると誇るのに、キャラクター造形がダメダメという話です。キャラクターがまともに表現できないアニメなど論外でしょう
犬や猫を擬人化した幼児向けのキャラでごまかしているから、きちんと人間を描けないのでしょう。そしてキャラの造形から表情の変化、視線の移動、指先の細かい仕草などもドラマを構成する要件です
それを描けないのか、面倒だからと省略してしまうのが中国アニメです
以下、吹き替えや宣伝については比較的妥当な指摘が並んでいますので、割愛します
しかし、こんな稚拙な見解から研究者は次のように結論付けています
上記五つの面において、日中アニメ産業の差が見られた。中国のアニメ産業は現状の苦境を乗り越えるためには、海外の良い経験を吸収した上、一方的な模倣ではなく、独自なものを作らなければならない。そうすれば、中国もこれからどんどん「中国オリジナリティ」を世界に発信していけるものと確信している。
この確信はどこから湧いてくるのでしょうか?
以上の分析から、とてもこのような自信満々の結論が導き出せるとは思えないのですが
大和総研がこの研究員にどれだけ月給を支払っているのかは知りません。しかし、とてもこの研究員にコンサルティングを依頼する気にはなれないでしょう
日本のアニメファンなら、この数倍の価値のある見解を披露できるはずです
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