朝日新聞に掲載された木嶋佳苗の手記 その1

朝日新聞のデジタル版(インターネット経由で有料購読する紙面)に木嶋佳苗の手記が掲載されています
拘置所に収監されている木嶋被告が手記を寄せたのは最終弁論後であり、判決言い渡しの前という微妙な時期です
世間の注目を集める刑事事件の被告人にはさまざまなメディア、ジャーナリストが接触しようと面会を申し入れたり、手紙を送りつけたりします
それに応じる被告もいれば、無視する被告もいます
出版社は独占手記の出版権を手に入れようと躍起になり、世間の注目度に応じて相応の金額を支払う契約を結ぼうとします
今回は朝日新聞が木嶋佳苗との間に何らかの合意を取り付け、手記を公表したわけです。今後は本という形で出版するのかもしれません
さて、手記は長文ですのでそれを全部ここで紹介するわけにはいきません
まずはその1部(手記は全部で6通あります)を引用し、木嶋佳苗が何を言わんとしているのか考察したいと思います


「世間に向けて私の言葉で明らかに」木嶋被告手記 1
この度は、心ならずも、世間を色々とお騒がせ致しました。私の事件は、平成21(2009)年の10月末から2年半に渡って、様々なマスメディアで報道されました。それを見聞きした日本中の人たちに、私は有罪との心証を植え付けられたのであろうことが、裁判員裁判の判決に影響を与えるのではないか、との懸念を抱いてきました。
大きな刑事事件は、世論の動きに左右されます。メディアが社会に対して、私を悪者とレッテルを貼り、酷薄非道な過熱報道をすれば、その情報の受け売りが、国民の意見になってしまうのです。メディアのマインドコントロール力の強大さには、寒心に堪えません。メディアによって先入観を植え付ければ、世論は簡単に動かされうることを知りました。
現在もあきれ果てるほどの報道が続いていますが、裁判が終わった今、そろそろこの辺で、法廷では話していない私の心境を述べておいた方が良いだろう、という気持ちが芽生えてきました。
評価や意見は個人の自由ですが、明らかに事実誤認した話が喧伝(けんでん)され、曲解した臆測が乱れ飛び、私や事件について、多くの誤解をされたことに心を痛めています。風説を打ち消すことは出来なくとも、世間に向けて私の言葉で明らかにしておきたいと思いました。
この手記は、判決が言い渡される以前の、評議期間に書いたものです。
私は朝日新聞の記者である藤田絢子さんに手紙を託しました。判決の日まで私が手紙を送った相手は、弁護人と家族以外には藤田さん唯一人なのですが、朝日新聞についてはよく知りません。私は逮捕以前から、報道に全く関心を持たずに生活してきたので、新聞を購読した経験がありませんでした。
警察署の留置場で回覧されていた新聞は、埼玉では産経新聞、東京では読売新聞、千葉では日本経済新聞でしたから今まで朝日新聞を読む機会がなかったのです。拘置所で未決の被収容者は、新聞の自費購入が可能ですが、私は初公判まで全面的に接見禁止になっていたため、新聞購読は不許可の処遇でした。
今回藤田さんとのご縁があり、接見禁止も解除されたので、人生で初めて新聞購読契約をして、今春から晴れて朝日新聞の読者になりました。藤田さんのことは、昨年にお手紙を頂戴(ちょうだい)して以来、気に止めておりました。
裁判員裁判の法廷の傍聴席で、最前列に座っている女性を見た時、一目であの方が藤田さんではないかしら、と直感しました。その後のお便りで御本人であることがわかり、このような形で私の思いを伝える場を設けていただきました。
事件については、法廷で真実を証言しましたが、2月の最終週に体調不良に陥り、被告人質問の反対尋問に対して、きちんと答えることが出来なかったのは、残念で無念です。
法廷では、冷静に粛々と審理が進行するものと思っておりましたので、検察側が大声でまくし立て、威嚇的な態度で追及する主張の在り方には驚きました。
2月27日に○○検事の被告人質問を受けてから、夜になると、法廷で威圧的な言動で追及してきた○○検事が脳裏に浮かび、明日も大声で怒鳴られ恫喝(どうかつ)されると思うと、動悸(どうき)がして眠れず、血圧と体温が上がり体調を崩してしまいました。○○検事の振る舞いに接し、5日間高熱が続き、審理を中断した日もありましたが、病院で治療を受け、翌週には何とか回復しました。
検事の声を聞いて、取調室で警察官から脅迫的な口調で怒鳴られたり、机を叩(たた)かれたり、椅子を蹴られたり、侮辱的な言動を受けた時の恐怖感がオーバーラップしたのです。
暖房設備のない拘置所で健康に留意して、風邪を引くこともなく生活してきましたが、検事の言動には、精神的に強烈なダメージを受け、遂(つい)に体を壊してしまいました。私は1年5カ月警察署の留置場で過ごしましたが、埼玉、東京、千葉どこの警察署でも、人権を無視した不当な扱いを受けました。川越署では、既にマスコミが騒ぎ立てた頃も、接見禁止の被疑者の立場である私を、共同室(雑居)に入れました。
留置場での人間模様は、それまで女性と深く付き合うことのなかった私にとって、興味深いものでした。極僅(わず)かですが、学びとなる有意義な出会いもありました。
浦和の拘置所には、昨年の2月末日、東日本大震災の直前に移りました。震災の復興と共に、私の心の在り方も、正しい方向に導かれていったように感じます。さいたまの拘置支所では、人権を尊重した処遇が守られ、職員は常に温情を持って接して下さり、健やかな心身で裁判に臨むことが出来ました。
警察署では、留置場内での生活から取調室での様子、捜査状況に至るまであらゆる情報が世間に流出しましたが、拘置所生活において私のプライバシーに関わる情報が外部に漏れたことは、私が知る限り一度もありません。これは、警察官と刑務官の職業意識とモラルの問題だと感じます。拘置所職員のお陰で人間らしさを取り戻せたのです。
読書も私に、癒(いや)しと成長をもたらせてくれました。全ての件が起訴されるまでは、1日10時間近い取り調べが8カ月あり、その間は本を手に取る時間をなかなか持てませんでした。取り調べが終了し一段落してから、公判前整理手続きが始まり、裁判までの準備期間に、500冊以上の本を読みました。
勾留生活も、本があれば無聊(ぶりょう)に苦しむことはありません。たまに心痺(しび)れる本に巡り合うと、座右に置いて時折再読しています。現在は週5冊ペースで精読していますので、良書を教えていただければ幸せに存じます。そして、今まで本を含む物品の差し入れや手紙を送って下さった人たちに、この機会を借りて御礼を申し上げます。


6通ある手記の最初のものです。時候の挨拶のような文章で、死刑を求刑されている被告人らしからぬ落ち着きが感じられます
警察による不当とも言える取り調べや、見てきたような嘘を書くメディアに対する怒りがほとばしる文体でもよいと思うのですが、随分と感情を抑制していると感じます
男をたぶらかして次々と殺害した毒婦とのイメージに抗おうとしているのでしょう
あくまで「品の良いお嬢様」然とした語り口に終始しています
当然、この手記が朝日新聞を介して世間に流布され、多くの人の目に触れるのを意識して書かれており、朝日新聞の記事によれば書き直された箇所はひとつもなかったそうです
誤字脱字だらけのブログを書いている自分など到底及ばないほど、木嶋佳苗は入念に手記をしたためたのでしょう
つまりそれだけ何者かを演じようとする意志が強く反映していると見られます
冷酷な殺人者がこんな整った文章をかくはずがない、と世間に思わせたいのです
自分などは逆に、こうした文章を書く木嶋佳苗だからこそ次々と男を騙し、金をせしめることができたのだろうと考えてしまうのですが
彼女が嘘を並べて生きてきたように、この手記も事実を捻じ曲げ自己を正当化しようとする嘘が山盛りなのでしょう
木嶋佳苗の手記に何かしらの真実(事件の真相の告白)があると期待するのは間違いです。ですが、嘘というのもその人となりを表現するもので、まったく無駄なおしゃべりだと切り捨てるのは早計です
木嶋佳苗の嘘こそが、木嶋佳苗という女性を如実に表現しているのです
次回は事件に関する木嶋佳苗の言い分が反映された手記を紹介します

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