「韓国アニメーターなしに日本アニメは成立しない」と報じるメディア

雑誌「WEDGE」が韓国のアニメーション産業について記事を書いているのですが、その中で「韓国人アニメーターなしに日本のアニメは成立しない」とさも重大な事実であるかのように指摘しています
「WEDGE」は政治や経済の話題を中心としたビジネスマン向けの情報誌ですから、一般的なアニメーションファンとは異なる読者を対象としています。そのため、今回の記事ような「日本のアニメ産業も実は韓国によって支えられているのだ」という稚拙な認識がまかり通ってしまうのでしょう

韓国人アニメーターなしに日本アニメは成立しない 至れり尽くせりの韓国アニメ業界
宮崎アニメを代表する作品に対する国内外の評価は高く、翌年開かれたベルリン国際映画祭において、日本としては39年ぶり、アニメーションとしては史上初の金熊賞(最高賞)を受賞。さらにはベェネツィア国際映画祭のオゼッラ賞、ニューヨーク映画批評家協会最優秀アニメーション賞、03年には長編アニメーション部門でアカデミー賞などを受賞した。
『千と千尋の神隠し』はまた、米英仏伊や中国・韓国など8カ国で公開された。韓国では直訳で『千と千尋の行方不明(神隠し)』として日本での封切直後に公開されているが、自らフィルムを携えて訪韓した宮崎駿監督は、「あなたたちがいなければこの映画は完成しなかった」と韓国スタッフの労をねぎらったという。


この部分は韓国メディアが報道していた内容をそのまま引用したものです。韓国では「あの巨匠宮崎駿でさえ、韓国のアニメーターの優秀性を認めた」と、大々的に報じていました。プロモーション活動のために韓国を訪問した宮崎駿の、単なる社交辞令にすぎないのですが
商売のため韓国へ行ったのですから、そこで韓国の作画のひどさについて指摘したりはしません
世界一口うるさい日本のアニメーションファンの間では、韓国の下請け作業の質の低さはいまさら指摘するまでもない話です
この記事を書いた小田桐誠というジャーナリストはそんな基本的な情報すらチェックしていないのです


だが韓国のアニメ業界が、日本やディズニーに象徴される米国のアニメの下請けだけで満足するはずもない。80年代半ば以降には国産アニメ制作の模索が始まり、87年頃から局制作のアニメ番組が放送されるようになった。90年代前半にはアニメ番組に関わっていたアニメーターたちが制作会社を設立し始めると同時に、劇場用アニメの制作にも挑戦し始めた。


挑戦したのは事実ですが、成功した例がどれだけあるのかと言いたくなります。記事で紹介しているのは2003年の「無限戦記ポトリス」のみです
この記事を読むと既視感が漂うばかりで、どれもが韓国メディアが報じたアニメーション関連記事からの引用だらけです
小田桐誠はインターネットで記事検索をし、そこから情報をコピペしてこの記事を書いているのでしょう。実際に取材したのかさえ疑わしく感じられます
記事の後半では韓国アニメーション業界が下請けの地位にとどまらず、自ら企画し制作する道へと進み、韓国政府がそれを支援していると強調しています。それに比べて「ジャパニメーションは」と切り返し問題点を指摘したつもりになっています
そもそも「ジャパニメーション」などという表現は死語であり、いまどきこんな言葉を使う人間はいません。世事に疎いジャーナリストでけでしょう
この一点だけでも、小田桐誠が日本のアニメーションについての情報が古く、かつどこかのメディアが報じた内容を受け売りしているだけであるのが分かります
それでも小田桐誠は記事の末文で、「テレビ・劇場用ともアニメ制作の芽は萎むばかり。遅ればせながら日本も海外を睨んだコンテンツ流通に力を入れ始めているが、確たる方向性は見えてこない」と日本のアニメーション産業が行き詰っていると指摘した気でいます
日本で年間どれだけ劇場版アニメーションが制作されているか、その興行収入がどれだけになるのか、小田桐誠が把握していないのは明らかでしょう
ジャーナリストを名乗るのであれば、ちゃんと取材して記事を書くべきです
日本では毎年、10本以上の劇場版アニメーションが公開され、実写版映画に劣らないほどの興行収入を挙げる作品も珍しくありません。「ドラえもん」や「コナン」は20億円から30億円の興行収入になります

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