光市母子殺害事件を考える 最低の弁護団

最高裁判所の判断はすでに下ったわけですが、事件について、裁判についてさまざまな報道が駆け巡っています
テレビの報道番組と称するバラエティでは「18歳の少年に死刑判決を下してよいのか」と、いかにも表面的な部分だけをとらえ益もない議論を繰り広げていました
事件の意味を見失い、単にセンセーショナルな話題として取り上げているだけに過ぎず、掘り下げる気もないようです。芸能人の離婚もこの事件も同列に扱おうというのが番組のスタンスですから、やむを得ないところでしょう
一方、新聞の方はさまざまな視点からこの事件と裁判について語ろうとする姿勢が見て取れます。テレビと新聞の違いは、やはり作り手の意識の違いにあります
テレビは話題を紹介するだけで、あとはコメンテーターが適当に尾ひれをつけ、オチをつて終わりですが、新聞の場合は何を問題にするか、何を指摘するべきかを考慮した上で記事が構成されるからだと思われます
前置き長くなりました。本日の話題は光市母子殺害事件を担当した被告人の弁護団について書かれた産経新聞の記事です
(記事は削除されました)
光市母子殺害事件で大月孝之(旧姓福田)被告の弁護のため結成された弁護団については、その活動を巡って外部からの批判はもちろん、弁護団内でも意見の食い違いがあったという話は既に知られているところです
弁護団のリーダーである安田好弘は死刑廃止運動の熱心な活動家として知られていますが、あまり評判のよい人物ではありません
今回の弁護活動も被告人を弁護するのが目的なのか、死刑廃止運動の象徴としてこの事件を利用しているのか、評価が分かれます
そして何より、弁護のための手法がこの事件と裁判で問題視されました
上記の記事で、差し戻しとなった広島高等裁判所の控訴審において唐突に弁護団がそれまでの主張を転換し、「(弥生さんを殺害後死姦した行為を)死者を蘇生させるための儀式と信じて行った」と行為について触れているのですが、もう少し補足しておきます

安田好弘がこの事件の弁護に加わったのは、最高裁判所の上告審からです
被告は一審、二審において、強姦目的の犯行とする検察の主張に特に反論しなかったのですが、最高裁判所での上告審において安田好弘は従来の主張を変更し、母子を殺害する故意が無かったと言い出します
つまり強姦殺人事件ではなく、傷害致死事件だと言い始めたわけです
殺人事件では死刑が求刑されてしまうため、死刑の対象とならない傷害致死事件であると主張し、死刑に問われないようにしようとの狙いです
安田好弘は事件について、「母恋しさ、寂しさからくる抱き付き行為が発展した傷害致死事件。凶悪性は強くない」と述べています
その上で、弥生さんを殺害後、死姦に及んだ行為について小説『魔界転生』に復活の儀式と書いてあったからと広島高裁での控訴審で主張します(小説『魔界転生』にそのような儀式のシーンはありません)
この荒唐無稽にして被害者を馬鹿にした主張が世間の批判を招き、バッシングを受ける結果につながった経緯は産経新聞の記事に書かれている通りです
しかし弁護団の法廷戦術としてこれが妥当なものであったのかは疑問です
要するに被告の未熟な人格ゆえの行動だったという点を強調し、最初から強姦を目的とした計画的な犯行ではなかったと言いたかったのでしょう。そのため誤解されるのを覚悟の上で「ドラえもん」やら「魔界転生」を持ちだしたと思われます
が、これが本当に「真実の追究」であるのかどうかは別です
大月被告自身、そのように犯行の動機を弁護団に説明したと認めているわけですが、だからといってこれが事件の真相だとは考えられないのです
私見を述べれば、「ドラえもん」も「魔界転生」も被告が後日思いついた話であり、自分の行動を説明するためのフィクションだと推測します
ですから「ドラえもん」話をいくら追求したところで事件の意味には到達できません
被告の未熟な人格を裁判官に理解させたいのであれば、もっと別の方法があったはずです(ただし、いかに未熟な人格の持ち主でいかに悲惨な生い立ちであったとしても、凶悪な犯行は厳しく断罪されてしかるべきだと考えます)
安田好弘は最高裁判所の判決について「最低の判決」と述べたそうですが、この事件について言えば安田好弘以下最低の弁護団が導きだした結果だと言えます

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