奈良調書漏洩事件で医師の有罪確定

2006年6月、当時16歳だった少年が義母や義弟、義妹を殺害した上、自宅に放火する事件が奈良県で発生し、社会を震撼させました
少年は鑑定留置となり、精神鑑定が実施されたのですが、その担当医にところには裁判所から事件に関する調書一式が預けられました。精神鑑定を実施するには事件の詳細を知る必要があるためです
当然、その調書の扱いには格段の注意が必要であり、みだりに他人に見せたりしてはならないわけです
しかし、精神鑑定を担当した医師は訪ねてきたジャーナリストにこの調書を見せ、複写するのを許してしまいます
ジャーナリストは複写した調書をそっくりそのまま引用した本「僕はパパを殺すことに決めた」を講談社から出版します
これが奈良調書漏洩事件の概要です
医師は秘密漏示罪の容疑で逮捕され、裁判で争ってきましたが今年2月、最高裁判所は医師の上告棄却を決定し、懲役4月執行猶予3年とした1審奈良地裁、2審大阪高裁判決が確定します


奈良県の医師宅放火殺人事件で中等少年院に送致された医師の長男の供述調書などを漏らしたとして、秘密漏示罪に問われた精神科医、崎浜盛三被告(54)の上告審で、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は15日までに、被告側上告を棄却する決定をした。懲役4月、執行猶予3年とした一、二審判決が確定する。決定は13日付。
少年の精神鑑定を担当した被告が、フリージャーナリストの草薙厚子氏に調書などを見せた事件で、それが大きく引用された本「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)が出版され問題となった。公判では鑑定業務が秘密漏示罪の対象に当たるかなどが争われた。
同小法廷は同罪が成立するかを職権で検討。「鑑定人の業務は医師の業務ではなく、同罪に当たらない」との弁護側主張に対し「鑑定は医師の業務として行うもので、鑑定過程で知り得た秘密を正当な理由なく漏らすのは同罪に当たる」と指摘した。
弁護側は「正しい報道を通じて少年の利益を図る正当な目的があり、違法性が阻却される」とも主張したが、同小法廷はそれについては判断を示さず、「上告できる理由に当たらない」として、一、二審の有罪の結論を維持した。
草薙氏は被告に無断で調書を撮影して著書に載せ、一審公判では情報源が被告であることを明かした。取材協力者が刑事裁判の対象になったことで、知る権利や言論の自由の観点からも大きな波紋を呼んだが、同小法廷はこうした問題には言及しなかった。
同罪の上告審判決は記録上初めてで、4人の裁判官の全員一致。千葉勝美裁判官(裁判官出身)は補足意見で「医師の身分を持つ人は高い倫理を要求され、秘密漏示罪は倫理に反した行為に刑罰で臨む趣旨。今回の行為はモラルに反することはもちろん、同罪にも該当する」と指摘した。
一、二審判決によると、崎浜被告は2006年10月、奈良家裁から受け取った少年の供述調書などを草薙氏に見せ、業務上知り得た秘密を漏らした。
(日本経済新聞の記事から引用)


上記の記事を読んでいただければわかると思うのですが、調書を丸写しして本を出版したジャーナリスト草薙厚子にこそ問題があるのは明らかです
ただ、現在の法律では直接草薙厚子の罪を問えないため、調書を草薙に見せ、複写を許した医師を処罰の対象にしたと言えます
草薙厚子は自分の取材方法をまったく反省もせず、もっぱら検察の陰謀だと批判しています
情報提供者である医師を守れなかった(迷惑をかけないようにしようという配慮を欠いた)時点で、ジャーナリスト失格でしょう
結果として草薙厚子は記事を発表する場を失い、札付きとしてメディアから干された状態にあります
確かに少年事件は伏せられた部分が多く、それゆえ誤解や偏見が横行し、事実が歪められてしまうケースも少なくないのですが、だからといって調書をすべて公開するのが正しい報道のあり方だとは言えません
「真実を明らかにしてやった」というジャーナリストのひとりよがりのため、多くの人が迷惑を被るような事態になったのでは功より罪の方が大きいのです

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