第146回芥川賞決定 受賞者会見へのおかしな批判

芥川賞の受賞会見で、作家の田中慎弥が「(受賞を)断って(石原氏が)倒れたら都政が混乱する。都知事閣下と都民各位のためにもらってやる」と発言したのですが、この態度には批判があったようです


5度目の候補で芥川賞に決まった田中慎弥さん。会見では笑顔を見せず、反骨心をのぞかせた。「私が(賞を)もらって当然だと思う。ここは断るのが礼儀だが、私は礼儀を知らないのでもらっといてやる」。照れもあるのか、「とっとと終わりましょう」と、何度か切り上げたがった。
今後について問われても「気持ちの変化も意欲もありません」とそっけない。だが、20歳のころから小説を書き始め、以来、1日も欠かさない。その結果、選考委員の黒井千次さんに「今までの彼の候補作で一番いい」と評された。
権威的なものには反発を感じるという。会見場を見渡して「こういう場が好きな人いないでしょう。政治家じゃないんだから」。“純作家宣言”に聞こえた。』
(時事通信社)

本人は冗談のつもりかもしれないが、ニコリともせずにいうから聞く方はそうとらない。感じたのは違和感だけだ。作家としては非の打ち所がないかもしれないが、こんなおめでたい席で終始不機嫌そのものだったのは、一人の大人として立派な態度とはとても言えない。私憤は別の所で晴らすべきだった。
(産経新聞)


この記者会見を直接見ていないのですが、おおよそ想像はつきます
過去に4度芥川賞候補に挙げられながら受賞を逃した悔しさ、腹立たしさが田中慎弥の中にあったのでしょうし、そうした恨みつらみを記者会見の場で吐き出さずにはいられなかったのだと思われます
だとすれば、営業スマイルで人を欺くようなマネのできない率直な人柄なのでしょう
一方で産経新聞の記者は、「会見の場なのだから営業スマイルで人を欺くべきだ」と主張しているわけです
新聞記者の「愛想をふりまくのも作家としての仕事だ」との指摘は正論なのでしょう。しかし、皆が皆、営業トークに徹する必要はありません
率直に自分の中にある悲憤を口にできる作家というのも、世の中には存在してよいのではないでしょうか?
産経新聞の記者は、「ましてやこんな会見を見てしまうと、人はどうあれ筆者は受賞作を読む気は起きない」とくさしているのですが、むしろ自分は読んでみたいと思います
作家に求められるのは世の中のあり方や人間関係を深く洞察し、心の機微を文章で表現する才であって、揉み手をしながら営業トークを展開する能力ではありません

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