粘菌研究で活躍する日本人研究者 イグ・ノーベル賞

昨年発表されたイグ・ノーベル賞で、はこだて未来大学中垣俊之教授が粘菌を使った知能の研究が選ばれ受賞しています
粘菌を迷路の中に入れると最短経路を探し出して餌場に到達するという行動結果が得られ、そこから脳を持たない粘菌がどのように知能を働かせているのか解明しようとする研究です
しかし、このまっとうな研究が半ばジョークのように受け取られ、イグ・ノーベル賞に選ばれたかのような報道が一部にはあり、何やら釈然としない思いが残りました
「下等で原始的な生物に知能などあり得るわけもなく、そんなくだらない研究をしたところで何も得られるわけがない。物好きな研究者の役にも立たない取り組みだ」との認識が世間一般には存在するのでしょう


ユーモアにあふれた科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」授賞式が9月30日、米マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大で開かれ、公立はこだて未来大(函館市)の中垣俊之教授=愛知県出身=ら9人が「交通計画賞」を受賞した。
アメーバ状の単細胞生物「真正粘菌」が輸送効率に優れたネットワークを作るとの研究で、人間が鉄道網など都市のインフラ整備を行う際、粘菌の"知恵"を役立てるとした内容が評価された。日本人のイグ・ノーベル賞受賞は4年連続。
他の共同受賞者は広島大の小林亮教授、科学技術振興機構さきがけプロジェクトの手老篤史専任研究員ら。中垣教授らは2008年に粘菌が迷路の最短距離を導き出すとした研究で同賞「認知科学賞」を受賞。事務局によると、同一人物の2回受賞は2例目。
中垣教授らは真正粘菌が餌に接触すると周囲にアメーバ状の体を集中させる性質に着目。関東地方の形の容器に主な鉄道駅に見立てた餌を配置した結果、粘菌が体を引き伸ばして作ったネットワークは実際の鉄道網より効率的な形だった。また、迂回(うかい)路が準備されているケースがあったりすることも判明した。
(日本経済新聞の記事から引用)


脳を持たない粘菌が不快な刺激を記憶し、その体験に基づいて不快な刺激を回避するための行動を選択するのですから、これは驚くべき事実です
こうした研究を通じて生物に宿る知能がいかなるものか、明らかにされるものと期待されるわけで、決してジョーク扱いされるような取り組みではありません
知性は脳に宿るのではなく肉体そのものに宿るとの考えがあるのですが、粘菌の行動はまさにそれを証明しているように見えます
さて、こうした有意義な研究をジョークのように貶める報道は今回だけではなく、米ウッズホール海洋生物学研究所の下村脩教授がノーベル化学賞を受賞した際にもありました
下村教授が研究のため毎日、海でクラゲをすくっていた部分だけが強調され、「クラゲをすくっていた科学者がノーベル賞を取った」と面白おかしく脚色されて報じられたのです
クラゲを捕まえるのが目的ではなく、それは研究材料を調達する手段にすぎなかったのですが、報道する側には「クラゲのような下等生物を研究している奇妙な学者」という認識しかなかったのかもしれません
基礎研究と呼ばれる分野の重要性は理解されるようになってきたとは思われるのですが、それでも「無駄で役に立たない研究」だと見下す雰囲気がまだまだ残っているようです
日本は科学技術立国を目指し、それがこの先の時代を生き残るための術だという共通認識があるはずなのに、基礎研究に対する偏見や蔑視をなかなか払拭できないのは残念です

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