北朝鮮「日米のイージス艦を撃沈してやる」発言

挑発的なタイトルですが、北朝鮮関係のニュースでは彼らの挑発的な言動がソース、という事態が少なくありません
北朝鮮の金正恩体制発足にあたり、この男が豪壮にして大胆な人物であると印象づけるための報道が続いています
2009年4月に北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した際、金正恩が「(北朝鮮のミサイルが日米によって迎撃されれば、(北朝鮮軍は)日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と発言していたと報道されています


北朝鮮の朝鮮人民軍高官が、2009年4月の長距離弾道ミサイル発射の直後に訪朝した米元高官に対し、「(ミサイルが)迎撃されれば(北朝鮮軍は)日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と伝えていたことが9日、分かった。日米の朝鮮半島筋が明らかにした。
同ミサイルの発射をめぐっては北朝鮮メディアが8日、新指導者の金正恩氏が立ち会い、「迎撃されれば戦争を決心していた」と話したと報じており、北朝鮮側には同報道を通じて、米当局に対し正恩氏の強硬姿勢ぶりを改めて示す狙いがあったとみられる。
同筋によると、北朝鮮国防委員会の朴林洙政策局長は、09年4月のミサイル発射直後に訪朝した米国務省元高官に対し、「迎撃は戦争行為と見なし、わが方はただちに空軍機で、迎撃ミサイルを発射した日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と語った。元高官は、米の北朝鮮政策当局にこの情報を報告している。
発射直前には、日本海で北朝鮮軍機がイージス艦の展開状況の偵察を活発化させていたことが分かっている。
米当局は北朝鮮側の発言は、状況によっては軍事衝突の危険性があったことを示唆し、日米を軍事的に威嚇したものとみていた。
しかし今回、「イージス艦撃沈」という軍事対応の背景に、正恩氏の強硬な対米姿勢があったことを明確に示すことで、正恩氏の先軍政治の継承者としての正統性も強調しようとしたとみられる。
当時、日米両政府は、ミサイル本体や燃焼後のブースター(推進エンジン)が日本の領土領海に落下する事態に備え、日本海に「ちょうかい」など2隻のイージス艦を配置、米軍と共同でミサイル防衛(MD)システムによる迎撃も検討していた。
(産経新聞の記事から引用)


2009年2月に北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射の準備をしているとの情報がアメリカの偵察衛星によってもたらされ、日米ともに警戒する態勢に入りました
実際の発射は4月5日でしたが、このとき海上自衛隊はイージス艦2隻を展開しており、日本政府は北朝鮮のミサイルが日本に落下する際にはこれを迎撃せよとの命令を発出したいました
アメリカ海軍も日本近海にイージス艦などを展開させていました
このとき朝鮮中央通信は、長期距離弾道ミサイルの発射ではなく、人工衛星「光明星2号」の発射であると報道していました(見え見えの嘘であり、軌道上にはいかなる人工衛星も確認されていません)
しかし今回の、金正恩の発言が事実ならば人工衛星打ち上げが嘘だと公式に認めたことになります
さらに、「日米が迎撃するなら、イージス艦を沈めるつもりだった」との発言ですが、北朝鮮軍では到底不可能な話です
戦闘機に対艦ミサイルを積んで日米のイージス艦を攻撃しようとしても、それだけの航続距離をもった戦闘機を北朝鮮は保有しておらず、空中給油で航続距離を伸ばすなどといった戦術を駆使する能力もありません
北朝鮮の陸地から対艦ミサイルを発射しても、射程距離は150キロしかないので届きません。イージス艦なら当然、敵の航空機やミサイルを探知し迎撃する能力をもっているわけで、北朝鮮の攻撃を退けるのは難しい話ではないのです
また、海の上を移動しているイージス艦を長距離弾道ミサイルで攻撃するなど不可能です。ピンポイントで命中させるような精度はありません
可能性を考えるなら潜水艦による攻撃くらいでしょう
しかし、日米ともイージス艦を単独で行動させたりはしません。対潜水艦戦を考慮し、駆逐艦などを随伴させるのが当たり前です
ちなみに日本は太平洋戦争でアメリカ海軍の潜水艦攻撃に苦しんだ経験がありますので、海上自衛隊は対潜水艦戦に並々ならぬ力を入れています
対潜哨戒機P-3Cを100機近く保有し(潜水艦を発見するためのブイを海中に投下し、その情報を元に魚雷を投下して潜水艦を仕留める能力を有しています)、護衛艦の多くは対潜水艦戦のためのヘリコプター(潜水艦の近くへ素早く移動し、魚雷を投下して仕留める)を搭載しています
中国海軍の原子力潜水艦が沖縄近海で領海侵犯を起こした「漢級潜水艦事件」では、日米が協力して潜水艦を追尾しており、いつでも撃沈可能な状態だったとされます(迂闊に原子力潜水艦を攻撃し、撃沈させると放射能漏れという厄介な事態になるわけで、実際に攻撃するかどうかは高度な政治判断が必要とされます)
海上自衛隊相手に、「イージス艦を沈めてやる」発言をする男が、軍の最高責任者というのは悪い冗談でしょう
もちろん日米相手に大言壮語し、できもしないことをできるかのように宣言しなければならない立場なわけですが
産経新聞がこの金正恩発言をわざわざ報道するのは、「好戦的な人物」だと印象付けたいからなのかもしれません
北朝鮮の軍事力を軽視するのは危険ですが、過大評価すべきでもないと考えます

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