「内向きに閉じた日本のマンガ市場」という批判

マンガを海外向けに翻訳・出版するビジネスに関わり、現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員である椎名ゆかりという女性が、「日本のマンガ市場は内向きすぎる」との批判を開陳しています
アメリカで権威のあるアイズナー賞(コミック界のアカデミー賞というべき存在なのだそうです)の一部門で浦沢直樹が受賞したにも関わらず、浦沢直樹本人が授賞式にも出席せず、メッセージも寄せないのは問題だ、との言い分です

北米マンガ事情第7回 「内向きに閉じた日本のマンガ市場」

自分もアイズナー賞の名前はまったく知りませんでした
おそらく日本のマンガ好きの人々も、出版関係者も、漫画家もアイズナー賞を知っているとは思えません
浦沢直樹もアイズナー賞が何であるのか、過去にノミネートされた時点で初めて知ったのではないでしょうか?
確かに浦沢直樹がアメリカまで出向き、授賞式に参列し、感謝のスピーチをすれば会場も大いに盛り上がったでしょうし、彼の作品を市場に売り込んでいる出版関係者も大喜びしたと思われます
ビジネスとしては正論なのでしょう
だが本当にそうするべきなのか、という思いが残ります
「日本のマンガは日本の市場だけで成立しているのだから、わざわざアメリカまで行かなくても」と言うつもりはありませが、どうもそんなビジネス世界のこまめな営業活動のあり方と、漫画家の存在が相容れないように感じてならないのです
私的な体験を語れば、以前三省堂書店で本を買い、店から出ようとした際に出入り口付近の一角に机とテーブルが設置され、押井守監督が座っているのを見ました
サイン会のイベントだったのですが、押井守監督の隣に書店の関係者が1人いるだけでサインを求める客は誰もおらず、暇そうにしていました
またとない機会ですので、数分ほど短い会話をさせていただきました
押井守監督が営業活動のためサイン会をして回るのはビジネス世界の話としては当然なのでしょうが、押井守作品のファンとして当時は「そんな必要があるのかな」と思ってしまいました
「作家・クリエーターだからサイン会やらトークショーなどすべきではない」とは言いません。そんなファンサービス兼営業活動も必要だとは理解しているつもりですが、どうにも腑に落ちないのです
確かに日本の漫画家も海外の市場に目を向け、サンディエゴから全米主要都市を回ってサイン会や握手会をすべきなのでしょうし、アメリカのコミック市場に売り込みをかけるべきなのでしょう
おそらく中国や韓国の漫画家ならそうするに違いありません
日本のマンガファンの中には、「作品だけ、作家性だけを売り込めばそれで十分であり、漫画家自身が営業活動するくらいなら漫画を書いてろ」との意見もありますさすがにこれは極論ですが
漫画家たちは日本国内にいてもそうそう頻繁にサイン会をやったりはしませんし、トークショーに顔を出したりはしません。むしろ、姿も見せず、声も聞こえてこないのが当たりであり、「締め切りに追われて徹夜の連続」だと思われているからこそ、椎名ゆかりの指摘(極めて正論なのですが)が腑に落ちないのではないか、と想像します
まあ、浦沢直樹が営業スマイルを浮かべて名刺交換したり、アメリカの出版関係者を前にパワーポイントを使って自分の作品のプレゼンをしている姿というのはイメージできませんが
ましてや宮崎駿が、ニューヨークのダウンタウンでDVDの販売・握手会イベントをやっている姿など、思いも寄らないところです
それでも昨今のTPPを巡る騒動をニュースで見ていると、日本のクリエーターたちにも海外へ積極的な売り込みをかける姿勢が求められる時代なのだな、と感じます

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