渋谷ライブハウス放火未遂事件を考える2 殺人衝動の起因

渋谷のライブハウスにガソリンを撒いて放火しようとした島野悟志容疑者(23歳)は、2005年に東大阪市で4歳の男児の頭をハンマーで殴打し、重傷を負わせる事件を起こした人物です
逮捕後、大阪地検が簡易精神鑑定を実施し、さらに事件が家庭裁判所に送致された後に鑑定留置の決定があって、約3ケ月ほど本格的な精神鑑定が実施されています
この場合の精神鑑定は、統合失調症のような責任能力に問題がある重篤な精神疾患かどうかを判断するのが狙いです
結果としては責任能力に問題はないものの、広汎性発達障害があり他者とのコミニュケーションに問題があったと指摘されたようです
しかし、それがどの程度のものなのか、詳細は不明です
高校へ進学したもののすぐに不登校となり、中退してからは引きこもり状態にあったと報道されています。また、一部の報道では両親への報復のため世間を騒がせる事件を企てた、とあります
発達障害だから高校を中退したのか、他に原因があって中学や高校の生活に馴染めず浮いていたのか、この辺りも気になるところです
前にも述べましたが、広汎性発達障害だから無差別大量殺人に走る、と断定するのは早計であり、事件を読み誤る危険があります
広汎性発達障害と無差別殺人の間に明確な因果関係は存在せず、あくまで個人の抱える負因や家庭問題、心の内奥にある衝動、性的な幻想などが犯罪の引き金になるからです
昨日は現代の若者による殺人事件を、「命の大切さを知らないからだ」と決め付ける見方に異議を唱えました
殺人などの凶悪犯罪に走る少年の場合、小動物を殺害するといった異常行動が事前に観察されたりします
こうした異常行動は「命の大切さを知らないから」ではなく、むしろ命の大切さを理解しつつ、それゆえに命を弄ぼうとする行動だと解釈できます
少年が「死ね」とか、「ぶっ殺してやる」と口走るのは、自分に人の生死を司る能力があるとアピールしているわけで、つまり万能感に支配されているがゆえの言動です
命を奪う能力、権限が自分にはあり、社会規範など超越した存在だと思い込んでいる状態です
それは逆に、自分の思い通りにならない現実に直面し、自分の存在の卑小さや無力感に苛まれているがゆえに、根拠のない万能感に必死でしがみついている状態だとも考えられます
17歳当時、島野悟志が幼い男児をハンマーで殴りつけ、殺害しようと試みたのは、そうせざるを得ない状況に追い込まれていたからなのでしょう
もちろん、自らをそうした状況に追い込んだと言い換えることも可能です
島野悟志は当時、インターネットでこどもの死体が映った写真など好んで閲覧していたとも報じられていますので、こどもの体を弄ぶ性的な幻想を心の中に宿し、サディズムとマゾヒズムの交錯する愛憎劇に浸っていたと推測できます
家庭裁判所の少年審判ではそんな心の内奥にまで踏み込んだ審理はしないのでしょうから、島野悟志の中にあった性的な幻想は解消も緩和もされないまま、今回の事件を起こすまで維持され続けてきたのかもしれません
殺人の衝動とはこうした性的な幻想に起因し、欲望を満たすまで人を支配し続けるものだと考えられます
17歳当時の島野容疑者の殺人衝動にもっと踏み込むべきではなかったか、と思うのです(それで本人を改善、更生できたかどうかは何とも言えないのですが)

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