米ハイスクールで「ノルウェイの森」の課題図書指定にクレーム
村上春樹の小説「ノルウェイの森」は2000年からアメリカで翻訳出版されているそうですが、ハイスクールの課題図書に指定されたところ、「性描写に問題がある」と保護者からクレームが出たと報道されています
読んではいけない「ノルウェイの森」 米高校で「性的描写」批判
地元紙の「グロスター郡タイムズ」によると、「ノルウェイの森」には「31歳の女性と13歳の女の子によるレズビアンの生々しい性的描写がある」として、保護者から「10代の子どもにとって妥当だとは思えない。ショックだ」といった苦情が続出、学校側では8月下旬、問題とされた本をリストから削除した。
ニュージャージー州の1つのハイスクールの校区で起きた地域限定の騒動であり、全米で作品への批判が展開されているわけではありません
既に何度も書いてきましたが、日本の漫画やアニメーションの暴力シーンや性描写がアメリカで「こどもに見せるには不適切」と批判され、15歳以下の閲覧禁止といった規制の対象になったりします
NHKで放送されたこども向けアニメーション「カードキャプターさくら」にしても、北米でテレビ放映される際には登場人物の同性愛的な心情が「こどもに見せるのは不適切」と判断され、大幅な改変が加えられた話も当ブログで書いたとおりです
性に寛容に見えるアメリカ社会ですが、いわゆる同性愛的な表現をことさら嫌悪し規制しようとする保守的な風土が地域によっては根強く存在します
「ノルウェイの森」に見られる同性愛の描写は副次的なエピソードなのですが、それを不適切だと批判する保護者がいて、その主張に同調する意見も相次いだのでしょう
ですから、今回の騒動が作品の価値を否定するものではありません
こうした強引な主張がまかり通るのであれば、古典文学の多くも「淫らな性描写にあふれ、こどもたちに読ませるのは不適切な作品」とレッテルを貼られる結果になるでしょう
源氏物語をポルノだ、と批判するようなものです
アメリカでは地域によって、「ダーウィンの進化論をハイスクールの授業で教えるのは神の教えに反する」と騒動になったりするほど、保守的で偏屈な親たちが存在します
先進国で開放的な気風というアメリカに対する一般的なイメージとは異なる、保守的で頑迷、排他的なアメリカの精神風土の存在をあらためて認識させられるニュースです
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