渋谷ライブハウス放火未遂事件を考える3 動機という物語を読む

渋谷のライブハウスに放火して多くの人を殺害しようとした事件について、3度目の言及になります
この事件の報道に接した際、頭に浮かんだのが平成12年に起きた新宿歌舞伎町のビデオ店に爆発物が投げ込まれ、男子高校生が逮捕された事件です
例によって未成年者による犯罪ですので、犯人である高校生の生い立ちや事件の詳細などは明かされておらず、新聞等で報道された断片のみが世間一般には知られているだけです
したがってそうした断片から高校生がこの事件にどのような意味を込めたのか、推測するしかありません
今回の渋谷ライブハウス放火未遂事件とは別の事件なのですが、犯人の動機やその言動を解釈する上で参考になると考えますので、取り上げます
歌舞伎町ビデオ店爆破事件について、安全生活アドバイザーなる人物が言及しています


自分の気持ちを違法・不法行為で晴らそうとする人々
平成12年12月5日、東京・新宿歌舞伎町のビデオ店に爆発物が投げ込まれ、爆発するという事件がありました。散弾銃を持ったT県内の17歳の男子高校生(銃砲刀剣類等所持等取締違反で逮捕)が「人を壊したかった」「誰でもよかった」などと言って、容疑を認めています。
爆発物はこの男子高校生が製造したもので、殺傷力を高めるため「釘」を300本入れていました。直前に受けた「毒劇物取扱者」試験の結果が不合格になっており、「むしゃくしゃして、人をやっつけようと思って作った」などとも供述しています。
(これらのケースは少々、内容が複雑なのでわかりにくいかと思いますが、「むしゃくしゃしてやった」という部分だけをお伝えするため簡略化してあります)。


上記の記事を書いた安全生活アドバイザーがどのような人物かは知りませんが、これだけの事件を起こした背景を簡略化し、「むしゃくしゃしてやった」と括ってしまう扱い方にはびっくりします
前にも書きましたが、逮捕された犯人が火曜サスペンス劇場のように犯行に至るまでの理由・原因を理路整然と語ったりするわけがありません
犯人自身ですら、自分がどのような衝動にかられて犯行に至ったのか説明できない場合も少なくないのです
そんな説明できない思いを「むしゃくしゃしてやった」と表現しているだけであり、「むしゃくしゃ」に原因があると決め付けるのはあまりに浅い見方です
高校生は風俗店を爆破しようと考えたようですが、なぜか風俗店ではなくビデオ販売店に爆発物を投げ込んでいます
おそらくアダルトビデオを販売している店=風俗店と考えたのでしょう
そして犯行に背景にあるのは思春期にありがちな性の悩み、葛藤だったと推測されます。性情報の氾濫に翻弄され、性欲を刺激するこうした性風俗を嫌悪し、憎悪しつつも好奇心と性欲から逃れられない葛藤が、「風俗店を爆破してやる」との衝動を生み出し、手製の爆発物を作って投げ込むまで行動をエスカレートさせたと考えられるのです
高校生は自らのそうした性の煩悶を直視できず、犯行の動機としても十分に認識していなかったのでしょう。ただ、「むしゃくしゃしていたから」としか表現できなかったと思われます
爆発物を選んだのは何かを破壊したいという思いの現れであり、おそらくは自分をがんじがらめにしている性の煩悶を吹き飛ばしたかったからなのでしょう
アダルトビデオを見たり、エロ本を読んでマスターベーションをする男性は多いのですが、それで性欲を解消してすっきりさせる人もいる反面、罪悪感に悩む人もいます犯人の男子高校生も性情報に翻弄され、マスターベーションを繰り返しながらも罪悪感に悩み、己を悩ませる性風俗への敵意を抱くようになったと推測されます
思春期の少年が起こす事件を考える上で、こうした性的な煩悶、葛藤は無視できません(犯行の動機として着目されるケースは多くないのですが)
神戸の連続児童殺傷事件は犯人の書いた手紙にある、「ゲームの始まり」という文言ばかりが注目され、「ゲーム感覚で人を殺すなどけしからん」といった批判へと展開してしまったため、事件の意味を読み誤った人が多くいました
あの事件も犯人の少年が抱える性的な夢想と葛藤が原因だったと考えられます
今回の渋谷ライブハウス放火未遂事件の犯人も、少年時代に幼児をハンマーで殴りつけ重傷を負わせる事件を起こし、少年院に送致されています
幼児をハンマーで殴るという行動の背景にも、何らかの性的な夢想や葛藤があったはずです。それが解明され、本人の中で性的な夢想や葛藤が解消されていたのかは分かりません(サディズムとマゾヒズムに彩られた性的な夢想というのは本人を魅了し、なかなか手放そうとしません=本人が夢想にしがみつき手放そうとしない)
少年院の矯正教育がどこまで本人への働きかけとして有効なのか、疑問です事件を解明し、解決するには、時として精神分析のような心の深層に働きかけるアプローチも必要でしょう。もっとも、精神分析は分析を受ける少年に改善や治療を望む強い動機が必要であり、本人の希望に反して無理やり試みても失敗に終わります

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