秋葉原17人殺傷事件を考える17 公共政策の失敗
秋葉原の歩行者天国で加藤智大が17人もの人を殺傷した事件について、さまざまな本が出版されつつあります
その中の1冊を日刊サイゾーが紹介しています
著者である北海道大学公共政策大学院准教授中島岳志という人物についてはまったく知りませんが、有名な言論人だそうです
「秋葉原事件」とは何だったのか 気鋭の言論人が追った加藤智大の横顔
記事を読んでもどのようなスタンス、どのような方法論で事件について語っているのか、さっぱり分かりません。社会学的な見地から事件を眺めているようにも見えますが、どうなのでしょうか?
「彼が言っていることを整理すると、『建前』『本音』『本心』はどれも違うと主張している点がポイントです。現実の世界は、彼にとっては『建前』の関係で、本当のことなんて言えない世界です。一方、ネットは彼にとっては『本音』の世界でした。ただし『本音』と『本心』は異なります。例えば、彼は『ゲーセンでイチャついているカップルに火をつけたい』といった内容を掲示板に書き込んでいるんですが、これは『本音』だけど『本心』ではありません。本当に火をつけたいわけじゃないけど『うっとうしい』という気持ちはあるんです。その気持ちを『ネタ』にしているのが書き込みなんです。そして、その皮肉を分かってくれる人とベタな『友達』になりたかった」
これも取り立てて新発見だというものではなく、誰しも「本音」と「建前」は違いますし、時と場所や相手に応じて使い分けているのが実際です。この辺の心の動きを語ろうとすれば、それだけで本が1冊出来上がります
非正規雇用が秋葉原の事件を引き起こしたかのような主張が本の中で展開されているのか不明ですが、もしそうなら大きな思い違いでしょう
加藤智大が派遣切りに遭いそれが凶行に走るきっかけになったのですが、だからといってから非正規雇用の問題がこの事件を生み出したと結論付けるなら事件を読み誤っています
―一方、加藤被告の発した「誰でも良かった」という言葉を中島さんはどのように受け止めますか?
「逆に言うと、殺したい人は特定の誰かではなかったんです。ただ本当に誰でもいいわけではありません。彼は『秋葉原』という場所を選んでいますよね。彼の価値観における世界の中心は秋葉原であり、秋葉原で事件を起こすということに意義があったんです。職場である静岡では意味がなかったんですね」
秋葉原で事件を起こしたのは加藤智大がそこに何らかの象徴的な意味を込めたのでしょうが、その部分を読みとかなければ事件の意味を読解したとは言えません
「誰でも良かった」の解釈も、特定の誰かではなかったと指摘するだけでは不十分でしょう
自分の解釈はこれまでに書いてきたように、「母親への復讐」説です。17人もの無関係な人を殺傷し、その責任を母親へ押し付けようという、実に子どもじみた発想による復讐です。世間の注目を集める=世間の批判を母親へ向けさせる、という意図が感じられます
そうした加藤智大被告の気持ちを知ってか知らずか、母親は1度も出廷せず、証言台に立とうともしませんでした
加藤智大の母親への憎悪の深さは、母親から愛されたいという欲求の深さだとも言えますが、加藤本人が理解しているのかは不明です
自分の場合は精神分析の考え方を基本にしていますので、事件の解釈も精神分析寄りに傾きます。当然、他の知見から事件を読み解く立場もあるわけで、この事件について異なる見解が提示されるのを否定したり、揶揄するつもりはありません
しかし、日刊サイゾーの記事を読む限り、どのような解釈を提示しようとしているのか掴めません。「本を読め」と記事の文末にはありますが、本の宣伝記事だとしてもこれで心が動かされ、買い求めて熟読しようとする気持ちになるのでしょうか?
中島岳志は公共政策の専門家のようですが、加藤智大の事件は公共政策の失敗が生み出したものではなく、彼の家庭が生み出したものだと考えた方が適切だと自分は思います
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