取手バス襲撃事件6 殺意を認めず傷害で起訴
昨年12月、JR取手駅前でバスに刃物を持って乗り込み、乗客の高校生ら14人に切りかかった事件で逮捕された斎藤勇太容疑者が「傷害」で起訴されました
「殺すつもりだった」と供述していた斎藤容疑者なのですが、検察は「殺人未遂」で起訴するほど殺意は明確でなかったと判断したそうです
茨城県取手市のJR取手駅で昨年12月、路線バスに乗り込み乗客の中高生らに包丁で切りつけけがを負わせたとして、水戸地検は27日、同県守谷市の無職、斎藤勇太容疑者(27)=殺人未遂容疑で逮捕、送検=を傷害と銃刀法違反の罪で起訴した。
同地検は、傷害罪を適用した理由について、けがの程度が比較的軽かったことなどを挙げ「証拠を総合的に判断した結果、殺意の認定は難しかった」と説明した。地検は責任能力の有無を調べるため約4カ月間鑑定留置、責任能力に問題はないとしている。
起訴状によると、斎藤被告は昨年12月17日午前7時40分ごろ、果物ナイフと包丁を携帯し、バス2台に乗っていた中高生ら8人の頭や顔を包丁で切りつけるなどし、1~3週間のけがを負わせたとしている。
地検は認否を明らかにしていないが、4月に接見した弁護士によると、「人を殺して、人生を終わりにしたかった」と話しているという。
(共同通信の記事から引用)
人を殺害しておいても、「殺すつもりはなかった」と殺意を否定するケースは山ほどありますが、「殺すつもりだった」と容疑者が殺意を認めているにも関わらず検察が殺意を否定するケースは稀でしょう
記事によれば、斎藤容疑者の使用した包丁が刃の部分まで粘着テープで覆われており、十分な殺傷力が認められないというのが理由のようです
刃物で人を襲い、無差別大量殺人を企図したように見える事件なのですが、それでも人を殺害することへのためらいが斎藤容疑者の中にあったと言えるのでしょうか?
前にも書きましたが、事件の外見だけから大阪教育大付属池田小学校を襲った宅間の事件や、秋葉原で17人もの通行人を襲った加藤の事件と同じだと決めつけ、判断するのは大きな間違いであり、事件の意味を読み誤る危険があります
事件の外見は似ているようでも、そこへ至る道筋はそれぞれ違います
斎藤容疑者は事件を起こすまで、何度も包丁を持って駅に行っては犯行に踏み切れず引き返すという行動を繰り返していました
それはあたかも自殺者が自殺を企てながらも、決行に踏み切れず中止するのに似ています
斎藤容疑者は自殺願望があったようですが、1人で死ぬ決心もできず、無差別殺人を起こして何人もの犠牲者を道連れにしようと考え、死刑になるのを欲していたように見えます
その辺りの葛藤がどのようなものであったのか、外部からはうかがい知れませんが1人で死のうと決心できなかったのにも、いくつか理由があるのでしょう
1人だけで死ぬのは惨めすぎると思ったのかもしれません。働き、それぞれの生活を送っている同年代の青年に比べ、自分の境遇が惨めすぎると感じ、1人だけ死ぬのは負けを認めるようで不満だったのかもしれません
無差別大量殺人の場合、自分の身の不幸を社会のせいだと考える「他罰的な思考」の持ち主によって引き起こされる場合がしばしばです
斎藤容疑者の場合、友達もいない孤独な少年時代を過ごし、高校卒業後はいくつかの職を転々としていました。鬱屈を抱え込み、社会への恨みを募らせる背景は十分にあったのでしょう
そして彼の中に、自殺願望とも破滅願望とも言えぬ衝動が膨れ上がってしまうのです
が、1人で死ぬのは嫌で、他人を殺しまくって自殺してやろうと決意するでもなく、迷いが続いたように見えます
迷いに迷った挙句、包丁の刃に粘着テープを巻いて中学生や高校生に切りかかるという、殺意があるのかないのか、判然としない犯行に走ったのでしょう
ちなみに彼が中学生や高校生に切りかかったのは偶然ではなく、自分の不幸な少年時代に対する報復の意図があったためだと考えられます。自分を無視したクラスメイトへの恨みがくすぶり続けていたのでしょう
こうした斎藤容疑者の心の奥の葛藤を、本人自身が整理できているとは思えませんので、捜査段階の供述はかなりちぐはぐで辻褄の合わない内容になっていたと想像できます
裁判の場で、もう少し整理されるのでしょうか?
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