秋葉原17人殺傷事件を考える16 「成熟格差社会」という指摘

心理学者加藤諦三については以前にも取り上げました。自分が若い頃には若者に生きる指針を示すカリスマ的存在として、大いに尊重されていた人物です
実際、加藤諦三に憧れ早稲田大学で彼に学ぼうとした人も少なくなかったはずです
しかし時代の変遷と共にその存在は薄れ、すっかり過去の人になりました
当ブログで繰り返し言及してきた秋葉原での無差別殺人事件について、加藤諦三が取り上げていますので、その主張を吟味してみます

秋葉原無差別殺傷事件に見る成熟格差社会(1)

長い文章ですが、掻い摘んでまとめると、「加藤容疑者は二五歳になって幼児期の甘えの願望が満たされていないので甘えたのである。幼児的願望が満たされないままに肉体的年齢と社会的年齢だけが二五歳の大人となった。そこでそれにふさわしい社会性を身につけることはなかなか出来ない」とし、「この秋葉原殺傷事件は三つの年齢のギャップを象徴的に示した不幸な事件である。かつてこの三つの年齢には大きなギャップはなかった。それは人が成長する生活空間が意味内実を持っていたからである。家族も地域社会も人のつながりがあった。しかし近代化の中で生活空間は意味内実を失い、それはグローバリズムと言う旗の中でどんどん加速された」と書き、これが「成熟格差社会」だと言いたいようです
しかし、グローバリズム云々はいかにもこじつけでしょう
加えて、「かつては(社会において)肉体的年齢と社会的年齢、心理的年齢の三つにギャップはなかった」決めつけるのはどうかと思います
これは昔の社会がこの年齢のギャップが露呈しないような仕組みを保持していたからです。小学校を卒業したら丁稚や徒弟として見習い奉公に入り、長い下積みを経て一人前になる社会と、高卒で入社したらすぐに一人前として責任を負わされる現代社会の差異を無視した主張です
昔も肉体的年齢と心理的年齢にギャップは存在したのですが、それが目立たなかっただけの話です
一般的には「心理的年齢」ではなく「精神年齢」と表現しますが、加藤諦三は「心理的年齢」とか、「働く心理的能力」、「心理的準備」などの表現に執着があるようです
秋葉原で無差別殺人をやった加藤智大死刑囚が、母親に甘えたくても甘えることができない過去を背負っているのは明らかですが、「甘えた若者」という地点から加藤諦三の思考は先に進まないように見えます
少なくとも「母親への甘え」が未達であるがゆえに、「母親への憎悪」が膨らみ、その憎悪のほとばしりが無関係な人たちに向けられ凶悪な犯罪に至ったと考えられるのですが、そうした加藤死刑囚の力動には興味がないのでしょう
続くページではもっぱら「成熟格差社会」という持論が展開されています

秋葉原無差別殺傷事件に見る成熟格差社会(2)

「樹を見て森を見ない」との表現がありますが、これは逆に「森を見て樹を見ない」主張です。つまり「成熟格差社会」だと言いたいだけで、加藤智大死刑囚個人の抱える問題は極力見ないようにしており、「甘えた若者」の一人だと決めつけているのです
成熟の格差は青少年が世の中に出てさまざまな障害にぶち当たる結果、顕在化したように見えるのですが、成熟の速度の個人差などは生まれたときから始まっているわけで、何をいまさらと思ってしまいます
現代社会は成熟の個人差など考慮せず、高校や大学を卒業して就職したら一人前の社会人と見なし、責任を問う仕組みです。未成熟な人間が失敗をしても許されたり、特別扱いしてもらえる可能性はありません
甘えた若者に責任を押し付けても問題は解決しませんし、成熟の個人差を認めない不寛容な社会システムを批判しても問題は解決しません

家族の情緒的絆があり、かつ家族が社会から孤立していることなく、地域社会や血縁関係があるときには成熟格差は少ない。その上に、個人がむき出しで社会に接することはない。
しかし情報化社会では成熟格差は大きい上に、個人がむき出しで社会に接している。どの集団も包括性を欠いている。と言うよりもグローバリズムが叫ばれる中では日本社会そのものが包括性を欠いてくる。

かつて若者のカリスマともて囃された心理学者加藤諦三ですが、その主張するところは歯の欠けた櫛を見るような気さえします

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