「3月のライオン」より 森安九段殺人事件を考える
羽海野チカによるマンガ「3月のライオン」について、これまで2回ほど言及しました
「3月のライオン」では主人公桐山零の陰画(対照的な存在)として、零の将棋の師匠の娘香子と息子歩の2人が登場します
香子と零、香子と父親の葛藤が物語の通奏低音のごとく重く響き続けています
物語がこの先どう展開するのかは分かりませんが、「3月のライオン」を読んでいて頭をよぎったのが、1993年11月に起きた将棋の棋士森安秀光九段(当時44歳)が兵庫県西宮市の自宅で殺害された事件です
森安九段の家庭も妻と長女(15歳)と長男(12歳)という構成であり、「3月のライオン」に登場する幸田家と似ています(これは偶然でしょうが)
事件は11月23日の朝8時過ぎ、妻が書斎で死んでいる森安九段を発見したとき、中学1年生の長男が包丁で切りかかってきたとされます
長男は、「パパが死んだのは僕のせいやない。学校を休んだことでガチャガチャ言うからこうなったんや。あんなに叱られては僕の立場がない。逃げ場がないんや!」と叫んだそうです
この時の長男の発言から、「塾通いや中学受験で勉強を強いられ、家の中にも学校にも自分の居場所がなくなり、追い詰められた挙句に父親を殺害した事件」と扱われるようになりました。当時、「こどもの居場所」についてさまざまな議論が交わされたと記憶しています
中学1年の長男は灘中学を受験したものの不合格で、国立神戸大学附属中学に合格し入学していましたが、学校を休みがちになっていたと報じられています
しかし、この事件は長男が父親である森安九段を殺害したのかどうか、はっきりとしません
事件とその背景について触れたウェッブサイトがいくつかあります
森安九段刺殺事件
現在も未解明! プロ棋士・森安九段刺殺事件の真相(1)
中学受験のため、長男は有名進学塾に通い、帰宅は夜11時だったと言います
ですが関西地区で中学を受験する場合、これが当たり前なのだそうです
神戸大学附属中学はエスカレーター式に進学できる高校がないため、中学に入った長男は高校受験を目指して塾通いを強いられていました
さて、話を戻してこの事件が長男の語ったされる「逃げ場がない。居場所がない」ために起こったものなのか、考えてみましょう
児童相談所に送られた長男は母親に包丁で切りつけた事実は認めたものの、父親殺害は頑として否定したそうです。その後はメディアでも報道していません
事件当時12歳なので、児童相談所が少年の処遇を判断しますが、家庭裁判所での保護処分が妥当と判断した場合は触法少年として家庭裁判所に送致されます
上記のサイトには医療少年院送致になったとありますので、家庭裁判所では精神医学的な措置が必要と判断したのでしょう
長男は事件を起こす前、カバンにナイフを忍ばせているのを父親に見つかり叱責されています。つまり長男には刃物によって身を守ろうとか、相手を攻撃しようとする意図を有するようになっていたと考えられます
可能性としては、森安九段と長男の間で口論があり、長男が包丁を持ち出したのではないでしょうか?
父親を刺すつもりだったのか、脅すつもりだったのかは不明ですが、包丁を取り上げようとした森安九段と長男が揉み合いとなり、包丁が刺さったと想像されます
刺し傷が胸に1ヶ所だけ、というのもその可能性を感じさせます
身長153センチの小柄な長男が森安九段と揉みあったというのも妙な設定かもしれませんが、森安九段が酒好きで昼間から飲酒するほどだったとあり、事件当時森安九段が酩酊状態だったとすれば、小柄な長男でも父親の手を振りほどき刺すことは可能だったでしょう
もし長男が怒りに任せて一方的に父親を殺害しようと企図したのであれば、もっと多くの箇所をメッタ刺しにしていたはずです
日頃から父親を激しく憎悪していたわけではなく、酔っ払った父親からの叱責にカッとなり、衝動的に包丁を持ち出したのかもしれません
「逃げ場所がない」ほど、長男が追い詰められていたのかどうか、両親はまったく考えもしなかったのでしょう
長男は週に1日か2日、中学を休み、塾も数日行かないようになっており、両親は周囲の人に愚痴をこぼしていたそうです
つまり、自分たちが長男を追い詰めている自覚など存在せず、「息子のわがまま」であり「反抗」と受け止めていただけと推測されます
長男の心身にのしかかっている負荷がいかほどのものか、両親は考えもせず、ただ名門中学から名門高校への進学だけを期待し続けていたのでしょう
また、長男もそうした親の期待に応えるべくぎりぎりの努力はしたのですが、途中でへばってしまい、それでも両親に向かって言い出せなかったのでしょう
最初に述べたように、この事件をきっかけにこどもたちの「逃げ場所」や「居場所」に関する論議があれこれなされたのですが、事件の意味はもうちょっと別のところにあったのではないかと、今にして思います
「居場所」云々ではなく、両親が長男の意向や気持ち、心情を汲もうとせず、一方的に名門中学から名門高校という価値観を押し付け、従わせようとしたところに問題があったと考えるのですが、どうでしょうか?
灘高に合格しなくても、東大に合格しなくても人間は生きていけるのですから
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