女装して女湯に入り逮捕される事件を考える

毎年のようにどこかで、女装した男が銭湯の女湯に入って逮捕される事件が起こります。女装癖、服装倒錯とされるフェティシズムが嵩じて、こうした犯罪行為に及ぶのですが、あらためて考えてみようと思います

女装し女湯に侵入容疑 川崎の銭湯で男逮捕

49歳の男性は警備員として働いていたそうですが、おそらくは女装癖があるとは誰にも気付かれなかったのでしょうし、隠していたと思われます
女性物の衣類や化粧品を買い揃え、女装をしていたのでしょうが、それだけでは満足できず、自分の姿を誰かに見せたい、見られたいとの思いが高まり、抑制できなくなったと推測されます
もちろん女湯に入れば簡単にバレてしまうのですが、だからといって思いとどまれるものではなく、抑えきれない衝動に駆られて踏み出してしまうわけです
これはフェティシズムの中でも女装癖や露出壁のような嗜癖は、他人の視覚を介して己の姿を映し出されることに性的な興奮をおぼえるためで、「見られること」がその行為の完結に欠かせないためです
フェティシズムについてはこれまでにも当ブログで何度か取り上げていますが、実際にこれを治療するとなるとなかなか難しい症状です
犯罪行為として摘発され、発覚する場合もありますが、そのほとんどは周囲の人や家族にも知られず、個人的な空間でひっそりと営まれる場合がほとんどだからです
他人に迷惑をかけない限り、女装癖は犯罪ではありません。もちろん、家族は知れば大問題となり、騒ぎになるのですが
そうして家庭問題にでもならない限り、女装癖を苦にして治療を受けようとする人はまずいません。自分が経験した例は、女性物の下着を盗んでいた息子の行動に驚愕した母親が、相談に来訪したケースだけです
これも下着を盗んでいた本人と直接会っていませんので、下着盗が本人の中でいかなる幻想を生み出し、どのようなフェティシズムを形成していたのかはっきりとはしません。下着を盗む行為に性的興奮を覚えていたのか、あるいは女性の下着を身につける行為にはまっていたのか、はたまた別の嗜癖があったのか、判然としないままでした
手許にある藤田博史の著作「性倒錯の構造」(青土社)に、フロイトのフェティシズムに関する考察が取り上げられています
その中で気になるのは次の部分です

フロイトはフェティシズムについて、「去勢脅迫に対する勝利のしるしであり、去勢脅迫に対する防御であり続ける。また、性的対象に値するような性格を女性に付与することによって、フェティッシュはフェティシストが同性愛者になることから免れさせているのである」と述べているのを受け、藤田博史は以下のように書きます
「フェティシストは他人から気づかれる可能性も少なく、したがって他人の拒絶に出会うことも殆どない。フェティッシュは比較的容易に手に入れることができるため、フェティシストはきわめて快適にその性生活を送ることができる。ここで問題なのは、現実の否認という機制が、なぜあるときはフェテシスムへ、またあるときは同性愛へ向かうのかということである」

フロイトはフェティシストが例えば女性の足を性的興味の関心にすることで、女性の性器に対する恐怖(去勢脅迫)→女性を拒絶して同性愛へ走るという選択とは別の、可能性を手にしていると考えます。ただし、同性愛へ走るか、フェティシズムへ走るかの二者択一という単純な図式にはなりません
フェティシストは、性倒錯をことさら複雑で込み入った物語に仕立て、その中に己の性的な欲望を反映させようとするからです
たとえば、男子高校生の着替えを盗撮して逮捕されたNHKの社員がいました。
盗撮というフェテッシュな行為と同性愛的な嗜癖がそこには混在しています
男子高校生の着替えを覗き、着替えを覗いている自分が覗かれ、そこから男子高校生と同性愛的な物語へ展開する幻想を、NHK社員は抱えていたのだろうと思われます
こうした物語は18歳以下禁止のエロ漫画、ボーイズラブ物に見られます。その意味でエロ漫画は人の抱える欲望をビジュアル化したものだと言えます(当たり前の話ですが)最初に取り上げた、「女装し女湯に入る事件」の場合、女湯に入っている女性の体を覗きたかったと単純に決めつけるのは誤りです
女性の体を覗くとともに、自分の体を覗かれ、自分の性倒錯(女装癖)が覗かれ、そこから同性愛(この場合、女湯に侵入した男性は女性と同一視されるのを期待するとともに、男性と露見し辱めを受けることも倒錯的な快楽の一部として織り込まれており、男性でありながら女性との同性愛的行為を希求するというさらなる倒錯もある)に至る物語を内に宿していたと考えられます
性倒錯はこのように二重、三重の入り組んだ物語を読む必要があります。「覗きはけしからん」と指摘するのは当然ですが、「けしからん」で終わってしまったのでは事件の意味を読み間違えてしまいます

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