「同性愛の男がCM出演」と批判する石原都知事
「同性愛者は遺伝的に欠陥がある」発言で物議を醸した石原東京都知事ですが、その認識については訂正する気も謝罪をする気もないようです
当ブログでも石原発言を取り上げましたが、人間の中に生まれた確信・偏見というものはその誤りを指摘したところで容易に打ち消せたりはしません
同性愛が遺伝子の欠損によって生じる症状であるとする証拠はいまのところなく、単なる仮説にすぎません
さてその石原都知事ですが、今度もまた「同性愛の男が化粧品のCMに出演するなどもってのほかである」と発言しています
同性愛の男が化粧品CM出演など世界でありえぬと石原都知事
「若者を軍隊に入れて鍛えるべきだ」発言する人はいまだにいるわけですが、今回はそちらの話ではなく、同性愛の問題を取り上げます
記事の中で、「差別でいうわけではないが、同性愛の男性が女装して、婦人用化粧品のコマーシャルに出てくるような社会は、キリスト教社会でもイスラム教社会でもあり得ない。日本だけがあってもいいという考え方はできない」と発言していますが、この断定は随分と不可解なものです
そこらにいる政治家がモラルの重要さを説くために発言するのであれば理解できるのですが、小説家でもある石原慎太郎がこうした杓子定規な考えにはまり込んでいるのは奇妙であり、滑稽にすら思えます
精神分析では人の心の奥底にある欲望、あるいは羨望を取り扱います
石原慎太郎のように同性愛を敵視し、これを断罪しようとする人物の中にあるのはモラルだけとは限りません。ある種の同性愛恐怖が潜んでいるのかもしれない、と考えます
強迫神経症の一種である不潔恐怖の場合、男性患者では同性愛恐怖がその原因であると考えられています。他人の手に触れるドアノブや電車の吊革などを無意識のうちに男性の性器と同一視しているため、これに触れることができなくなってしまうと考えるのです
それは他人の男性器に触れる行為であるとともに、自分の性器に他の男性が触れる行為をも示唆するもので、要するに同性愛行為を連想させるがゆえに拒否する=触れられなくなる、という症状が出現します
「自分が同性愛者だったらどうしよう」という困惑、不安を男性が抱いているがゆえに、同性愛的な行為に極めて過敏に反発し、これを糾弾せずにはいられなくなる人も存在します。同性愛批判を展開することで、自ら抱える「自分は本当は同性愛者ではないのか?」との不安を消し飛ばしたいのでしょう
同性愛行為を推奨するつもりはありませんが、男性はこの不安を抱えいるがゆえ同性愛行為を嫌悪し、同時にまた同性愛行為の中にエロスを見てしまうのです
同性愛が文学にとって重要なモチーフであり、同性愛のエロスに翻弄される人々の葛藤を描こうとした小説が存在するのはいまさら指摘するまでもありません
小説家である石原慎太郎がそれを知らないはずはないのです
確かに同性愛や少年愛、近親相姦などはタブーとされ、非難されるべき行為として人々の「常識」に組み込まれているのですが、人がそこにエロスを見い出し、魅惑され、惹かれてしまうのも事実です(だからこそ、人の中に葛藤を生じさせ、苦悩させるのですが)
女装をした男性、あるいは男装した女性に思わずドキリとしてしまうのも、当然なのです。そのため、数十秒の短いCMでも視聴者にインパクトを与えるのが可能です
前に石原都知事の「同性愛は遺伝のせい」発言を取り上げた際、女装愛好者をテレビに出演させる放送局の思惑に対する批判と、石原都知事の同性愛への偏見は別物だろうと書いたのですが、自分の見解は誤りだったのでしょう
同性愛への偏見も、女装愛好者をテレビに出す放送局の思惑への批判も、石原都知事の中ではごちゃまぜになって存在しているようにうかがえます
しかし、誰彼構わずに吠えかかるような批判は批判の目的を果たしません
メディアの在り方を批判するのなら、それに絞るべきです
いかに東京都が条例を制定しようとも、人の心の中までは縛れません。この世に同性愛が存在するのはモラルの破綻が原因ではないのですから
ビジュアル系のロックバンドに女性が夢中になるのも、スポーツで活躍する男性的な女性に夢中になるのも、そこに女性たちがエロスを見ているからです
これを「遺伝的な欠陥である」と切り捨てたり、「キリスト教社会にもイスラム教社会でもありえない」などと切り捨てるのは荒唐無稽と言うしかありません
カッコいい先輩女生徒に憧れる女子高生に、「キリスト教会社でもイスラム教社会でもありえない」と石原慎太郎は説教するのでしょうか?
あるいはエロスの抜けた健全な男女交際こそ、正しい恋愛の姿であると説くのでしょうか?
ペニスで障子を突き破るような小説(「太陽の季節」)を書いた石原慎太郎が、いまになってエロスを否定し、封じ込めるのに躍起になっているのはあまりに奇妙な現象に思われます
モラルなき社会を賞賛するつもりはありませんが、人間がエロスを求め、魅惑され、翻弄される生き物である事実を否定したところに健全な社会が成立するとは考えられません
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