今も存在する戸塚ヨットスクール

戸塚ヨットスクールと聞いても、若い方はご存じないのかもしれません
連日、新聞やテレビのワイドショーが戸塚ヨットスクール事件を報道しまくっていたのは1983年でした。戸塚校長をはじめとして、コーチ役の職員が訓練生への暴行容疑で逮捕され、世間を震撼させました
その戸塚ヨットスクールが現在もなお活動を続けている事情について、日刊サイゾーが記事にしています

高齢化するニートはどこへ行くのか? 戸塚校長のその後「平成のジレンマ」

戸塚ヨットスクールが存在し続ける理由は、そこに子どもを預けようとする親が存在するからにほかなりません
ただ、記事の中にある「情緒障害児を受け入れる場がない」かのような主張は誤りでしょう。全国に公立・私立の種々さまざまな施設が存在する事実を無視しています
中には戸塚ヨットスクールの卒業生が、戸塚ヨットスクール方式のスパルタ訓練を真似た施設を開設し、暴力沙汰で事件になった例もあります
そもそも戸塚宏は教育者ではありません。自身のヨットレースの体験(ヨットレースは不眠不休でヨットを走らせる過酷なものです)を元に、ヨットの選手を育成しようと始めたのが戸塚ヨットスクールです
情緒障害児や不登校児について戸塚宏は何も知らなかったのが実態であり、彼が教育論を語るようになったのは後から学んだ、後付の理屈です。マスコミの批判に反論するため理論武装した結果であり、自分のスパルタ訓練を正当化するために後から付け加えたものです
戸塚宏のヨットレース体験に日刊サイゾーの記事はまったく触れていないのが、何とも不可解でひっかかります
上にも書きましたが、1人でヨットを走らせる単独レースは過酷なものです。数日間にも及ぶレースでは寝る時間を削ってヨットを走らせ続けなければなりません
誰にも頼ることのできないたった1人のレースで、肉体的な疲労や焦燥感、孤独、睡魔と闘い続けなければならないのですが、その結果ある種の「ハイな状態」に到達します。マラソンランナーが体験する「ハイな状態」もこれに当たります
あるいは仏教などの過酷な修行もこうした「ハイな状態」に到達するのを目的にしたものと考えられます。それを「悟り」とも呼ぶのですが
こうして「ハイな状態」を体験した人間は、悟りを開いたかのような確信を得ます
戸塚宏の場合も「自分のやり方は正しい」との確信を抱き、その信じるがままにヨットスクールを運営し、大勢の訓練生を迎え入れ、管理が行き届かなくなり、事件に至ったと推測されます
極限状態に追い込めば覚醒し、「ハイな状態」になり、戸塚宏自身と同じ悟りを開いたかのような精神状態になるのを期待した上でのスパルタ訓練、というのが実態なのでしょうが、訓練生すべてがそうなるとは限りません
世の中には体罰を肯定し、厳しい訓練でビシビシ鍛えれば不登校もひきこもりも解決できると信じ込んでいる人が大勢います
こどもの抱えている問題の多様性を無視し、体罰だけですべてが解決するかのような単一的な取り組みはまったくの誤りであり、多くの弊害を生み出します
上記の記事の中でも、ヨットスクールに入れられたリストカットを繰り返す女の子が投身自殺した事件が紹介されています。そもそもヨットスクールの訓練に不向きなこの女の子を受け入れたことが間違いです
体罰信奉者は「自殺した奴が悪い」と決め付けるのかもしれませんが、それでは何の問題の解決にもなりません
心理療法の信奉者にも同類の人がいます。1つの心理療法に惚れ込む余り、この技法であらゆる問題を解決可能だと宣伝する人たちです
例えば精神分析でも向き、不向きがあります。自己洞察を拒む人に精神分析療法は適していません。そして精神分析は神経症の治療モデルですから、統合失調症など原因を異にするケースの治療までこなせるものではありません。決して万能ではないのです
戸塚ヨットスクール事件から20年経ってしまいました。が、事件を語る視点やその意味を問う姿勢も相変わらず、という気がします
ヨットスクールの実態をカメラで撮ったからといって、何か答えが見つかったりはしません。もちろんディレクターも理解しているわけでしょうが、そこには何の方法論も思索もないように感じられてなりません。カメラを撮影し、あとは視聴者に判断しろと丸投げしているだけのようで

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