大阪幼児餓死事件を考える7 多重人格の可能性
昨年7月、マンションに放置された幼児2人が室内で餓死する事件があり、母親の下村早苗容疑者が逮捕されたのですが、責任能力の有無を判断するため鑑定留置(精神鑑定)の措置が取られました
その後新たな報道もなかったのですが、通常鑑定留置は3ヶ月ですから下村容疑者の場合は期間が延長されたのでしょう
つまりはそれだけ精神鑑定に時間がかかっているわけです
産経新聞は下村容疑者が多重人格の有無について鑑定を受けていると報じています
【大阪2児遺棄】母親「自分がやったと思えない」 後悔の思いも吐露
「多重人格」あるいは「二重人格」の名称を日本のメディアは好んで使う、との話は前に書きました
ドラマでも、「犯人は二重人格の女性」などという設定が当たり前のように登場します
しかし、この症状を巡る概念は大きく変化しており、1人の人間の中に別人格が存在するといった理解はもう過去の話です
ですから、「二重人格」とか「多重人格」と呼んだり書いたりするのは誤解を招くだけであり、ケースの理解には結びつきません
いくつかの人格が1人の中に存在する障害ではなく、複数の人格を演じてしまうという同一性(アイデンティティ)の障害と理解すべきです
日本家族心理学会年報16「パーソナリティの障害」に収録されている一丸勝太郎の論文「多重人格性障害と家族」によれば、日本で報告されている「解離性同一性障害」のケースは30例程度とされます
多くは精神的外傷(幼少時期の虐待体験)を抱え、いくつかの人格を使い分ける言動が表出するのがその特徴です。しかし、1人の人間にいくつかの人格が存在しているのではなく、あくまで患者が創りだした産物として別人格を演じていると解釈されます
つまり虐待などの体験を内に閉じ込めてしまう(抑圧)ではなく、他の人格を演じることでやりすごそうとする(解離)ところに最大の特徴があるのです
下村容疑者は取り調べの段階で、「自分でない誰かがやった」かのような供述があったのかもしれません。ですが、それでは単なる責任逃れの演技だと決めつけられるでしょうから、取り調べの場でまったく同じ人物だとは思えない立ち振る舞い(いわゆる人格の交替)があったのかもしれません
上記の一丸勝太郎の論文では、解離性同一性障害と見られる13件のケースが簡略に紹介されているのですが、下村容疑者の生い立ちはこれら13件のケースと比較しても違和感がないものです。両親の離婚や、家族を顧みない父親、生活の不安定さ、父親からの暴力によるいくつかのケースに共通するエピソードが見られます
ただ、それで下村容疑者が「解離性同一性障害」だと断定するわけにはいきません
欧米での報告例では出現する人格(演じられる人格と表現すべきかもしれません)が5から13と多いのが特徴ですが、日本では平均3.8だそうです
ですから下村容疑者も3つから4つの人格を演じわけていたと理解し得るようなエピソードがあるかどうか、が判断の基準の1つになります
さて、どのような判断が下されるのでしょうか?
(関連記事)
大阪幼児餓死事件を考える1 厳しい家庭で育ったはずなのに
大阪幼児餓死事件を考える2 下村容疑者の生い立ち
大阪幼児餓死事件を考える3 こどもを抱えて迷走の果てに
大阪幼児餓死事件を考える4 遊び歩く母親
大阪幼児餓死事件を考える5 起訴前に精神鑑定
大阪幼児餓死事件を考える6 今も父は娘を拒絶
大阪幼児餓死事件を考える8 多重人格を否定、起訴へ
大阪幼児餓死事件を考える9 下村早苗被告の裁判始まる
大阪幼児餓死事件を考える10 下村被告の実父が証言台に
大阪幼児餓死事件を考える11 中学時代にレイプ被害
大阪幼児餓死事件を考える12 控訴審でも懲役30年
二重人格をめぐる冒険
16歳の娘を裸で縛り死亡させた母親
16歳長女監禁死事件を考える2 しつけという弁明
車に女児放置 死亡させた母親逮捕
車内に女児放置 竹内容疑者は何をしていたのか?
車内に女児放置 最初から冷房使用せず
車内に女児放置 竹内被告に懲役6年判決
保育園バスで置き去り 男児死亡