アメリカ・テレビ業界が日本アニメにあれこれ注文をつける

産経新聞のウェッブサイト「サブカルちゃんねる」に、アメリカでアニメーション・クリエーターを目指す若者へのアドヴァイスという記事が掲載されています
ブログで取り上げるつもりはなく、さらりと読み流して済ませるつもりでしたが、あまりに記事が読みにくくて何を言っているのか理解できないため、4回も読み返す羽目になってしまいました

【サブカルちゃんねる】日本アニメ 売り込む「魔法」は 経産省などが主催のフォーラムにヒント

最初の部分で「アメリカでアニメーションを作りたい。そんな希望を抱く人たち」がアメリカ人なのか、日本人なのかさえ不明で、理解できませんでした
2回読み返してようやく日本の若者に、アメリカのテレビ関係者が助言やレクチャーをしたものであると把握できました
「設定にこだわりがちな日本からの提案に、キャラクターやストーリーをアピールする重要性が示され」たとありますが、この部分も「?」と思ってしまいます
「この少女はどういう子なのか。スポーツ選手では誰が好きなのか。そんな、生身の人間を感じさせる説明が欲しかった」とアメリカのテレビ関係者は発言しているのですが、これを理解するのにまた記事を読み返してしまいました
日本を代表するアニメーション制作スタジオの「スタジオ・ジブリ」では、登場人物のキャラクターを掘り下げ、どこで生まれ、どのような環境で育ったのか、家族構成はどうなっているのか、などなど細部にまで詰めるようクリエーターたちに要求しています
当然、アニメーションについて教えている日本の専門学校でも生徒たちにそうした指導がされていると思うのですが、アメリカのテレビ関係者にわざわざ指摘されなければならなかったのでしょうか?
記事を書いている記者自身、方向性を見失ったまま記事を書いている気がしてなりません
そもそもアメリカのテレビ業界が求めるアニメーションと、日本の制作しているテレビアニメーションでは明らかに方向が違うからです
アメリカで人気を得ている日本のアニメーションの多くは、アメリカのテレビ局の好みとまったくかけ離れたものであり、テレビで放送されずDVDで販売されて多くの視聴者を得ている現実があります
たとえば魔法少女物の代表作である「カードキャプター・さくら」でさえ、アニメーションの内容(同性愛をほのめかすようなエピソードがアメリカの放送コードにひっかかる)との理由で自主規制され、全話のうち半分程度しか放送されなかったという事実があります。そのためファンは北米放送版のDVDボックスではなく、日本で放送されたバージョンのDVDボックスを買い求める事態になっています
こうしたアメリカの放送局の要求に従ってアニメーションを作るべきだ、と記事では主張しているところが何とも不可解で、同意できません
アメリカのテレビ局の要求に従って作られたアニメーションなど、日本のアニメーションファンからすれば悪夢でしかありません。見る価値すらないと言われるでしょう
どうしてもアメリカで成功したいのならアメリカのテレビ局の要求にしたがい、その嗜好に合った作品を手がけるべきでしょうが・・・
記事の末文、「日本から世界により多くのアニメ作品、アニメクリエーターが出ていくには、才能と市場とを結びつける工夫が必要だといえそうだ」との指摘も謎です
市場の要求とは何でしょうか?
少なくとも日本のアニメーションファンは、アメリカのテレビ局が要求すうるようなくだらない作品にお金を払いたいとは思わないはずです
世界のアニメーションファンが集うアニメ・フォーラムでも、アメリカのテレビ局が手がけるアニメーションのほとんどが罵倒と呪詛の対象です。だからこそ、海外のアニメーションファンは日本のアニメーションのDVDボックスを買い、視聴しているのです
アメリカのテレビアニメーションの成功例とされるのが「スポンジボブ」でしょう
世界各国で放送され、キャラクターグッズが販売され、市場で大きな成功を納めたとされる作品です。日本でもNHKが放送していましたのでご存じの方も多いでしょう

以下の動画は「スポンジボブ」の絵に「デスノート」の台詞をかぶせたパロディです


アニメーション・クリエーターを目指す日本の若者なら、こんな絵の幼児向けアニメーションをやりたいとは思わないでしょう(幼児向けアニメがくだらない、ダメとは言いません
が、スポンジボブより「日本昔ばなし」の方がはるかに魅力的な作品だと思います)
「日本は世界の主流から外れ孤立化している」と危機を煽るメディアがいますが、本当にそうなのでしょうか?
日本の漫画やアニメーションが世界で人気を得ているのは、「世界標準に合わせた」からではありませんし、「世界市場のニーズに合わせた」からでもありません
漫画にしてもアニメーションにしても、世界で一番うるさくて審美眼に長けた日本の読者や視聴者によって鍛えられ、育まれたものです
つまり日本の独自性を追求した結果、日本の文化である漫画やアニメーションが世界の人たちから愛好されているのです
繰り返しになりますが、アメリカのテレビ局の要求を満たすようなアニメーションは、世界中のアニメーションファンから「屑」扱いされるだけで、わざわざそんなものを目指す人間がいるとは思えません
アニメーターを目指す日本の若者なら目標はハリウッドでの成功ではなく、打倒宮崎駿であり、押井守を超えることではないでしょうか?

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