「20代に読んでおくべき本」ランキングに違和感
「20代に読んでおくべき本」ランキングというのがウェッブサイトにあったのですが、挙げられて本のリストに違和感を覚えたので取り上げます
転職サービス「DODA(デューダ)」が25~34歳のビジネスパーソン1000人を対象に、「20代で読んでおくべき本」についてアンケート調査を実施した結果なのだそうです
■「20代に読んでおくべき本」ランキング
1位 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海
2位 マネジメント- 基本と原則/P・F・ドラッカー
3位 28歳からのリアル/人生戦略会議
4位 金持ち父さん貧乏父さん/ロバート・キヨサキ
5位 7つの習慣―成功には原則があった!/スティーブン・R・コヴィー
6位 竜馬がゆく/司馬遼太郎
7位 20代に必ずやっておくべきこと/中島孝志
8位 チーズはどこへ消えた?/スペンサー・ジョンソン
9位 ライ麦畑でつかまえて/J・D・サリンジャー
10位 人を動かす/デール・カーネギー
「これが20代に読むべき本なのか」と驚き、妙に嫌な感じがしました
「自己啓発本など読んでも無駄」と自分は思っていますので、こうまで自己啓発本がずらりとならべば、嫌悪感が先にたってしまいます
何を読むかは個人の選択に委ねられるべきですから、「自己啓発本を読むな」と忠告するのは余計なお世話なのでしょう
話のついでなので余計なお世話と思いつつ、自分が読んだ本の中から幾つか、有益と思われるものを紹介します
司馬遼太郎の小説の中から選ぶのなら、「竜馬がゆく」ではなく「花神」か「箱根の坂」を推薦します。「花神」は幕末動乱の時代をテクノロジーという視点から描いたものです
いわゆる幕末の志士たちや新選組が大立ち回りする小説が「攘夷」とか「維新」といった抽象的イデオロギーに満ち満ちたものになっているのとは真逆の、技術革新による社会の変革という今日的な視点で幕末から明治へと移りゆく時代を読み解こうとしています
「箱根の坂」は北条早雲が主人公の小説で、「下克上」あるいは「応仁の乱」以降の戦国乱世とはいかなるものであったのか、という視点から描かれています。変革の時代に人は何を思い、何を考えて行動するかを模索する上で参考になります(北条早雲に関してはその生涯のほとんどが謎であり、小説の中の早雲は司馬の創作であるのは言うまでもありません。が、その司馬が描き出した早雲像はかなり魅力に溢れています)
北条早雲は身分のない浪人から関東の戦国大名にのし上がった人物です
自分にとって人生の大きな転機となったラカンの精神分析理論にちなんだ本としては、スチュアート・シュナイダーマンの「ラカンの死」(誠信書房)を挙げます。ラカンの入門書はいろいろありますが、ラカンの弟子であったシュナイダーマンの語る数々のエピソードはラカンの精神分析がいかなるものであったのか、端的に表現していると思います
丸山圭三郎の「欲動」(弘文堂)は、言語学者フェルディナン・ド・ソシュールの思想と精神分析家ラカンの思想を読み解くのに必読の書であり、フロイトからソシュールを経由してラカンに至る構造主義を理解する上でも役に立ちます
自己啓発本で世渡りの術を学ぶより、現代哲学に主たる潮流である構造主義や現象学について学び、世の有り様をどう認識するか、熟考するにも有益だと思います
ちくま学芸文庫から出ている竹田青嗣の「意味とエロス」は、現象学の側から人間の欲望やその行動の意味を読み解こうとする著作です。自分はいつもカバンに入れて持ち歩き、時間があればパラパラとめくって読んでいましたので、表紙は破れボロボロになっています
外国の文学作品で面白かったものはいろいろありますが、何か1冊か2冊、人に薦めるとなると迷ってしまいます
強いてあげるならトマス・ウルフの「天使よ、故郷を見よ」(新潮文庫)を薦めます
翻訳が古いのが難点ですが、1900年代のアメリカの生活を詩情豊かに描写するとともに、主人公(ウルフ自身)の成長を描いた佳作です
以上、かなり偏った選択になりましたが、自己啓発本よりは有意義だと思います
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