宝塚女子中学生放火事件を考える5 親友の存在

宝塚市で日系ブラジル人の女子中学生が同級生と共に自宅に放火し、家族を殺傷しようとした事件の続報です
逮捕された2人は神戸家庭裁判所で少年審判を受ける段取りになっています
産経新聞が「衝撃事件の核心」として、事件のこれまでをまとめて記事にしています

【衝撃事件の核心】もし裏切ったら…少女2人が交わしたもう一つの約束

ウェッブサイトで5ページにもなる長い記事ですが、これまで報じられてきた話をまとめただけで特に目新しいものはありません
逮捕された少女の義父はパン工場で働き、ブラジル人従業員と会社のパイプ役として人望があったと書かれていますが、それは彼の表の顔であって、家庭ではどのような父親であったかは不明です
タイトルからすれば、「少女2人が交わしたもう一つの約束」であるところの「裏切ったら殺す」を記者は強調し、そこに事件の核心があるとほのめかしているのでしょう
しかし、女の子同士で互いに何らかの秘密を共有し、「絶対に裏切らない」と約束を交わすのは別段珍しいものではありません。「互いの親を殺す」という企図はともかく、親友としての儀式であり、それが異常な犯罪へと走らせた原因ではありませんし、理由でもありません
「2人だからこそ、何らかの心理的な力動によって親を殺すという異常な行為に走った」と記者は思い込んでいるようですが、それは事件の意味を読み違えているのではないでしょうか?
前回、7月17日に当ブログで書いた記事でも、雑誌「AERA」が、「2人の閉じた関係」と題し、「2人の特殊な関係が事件の原因」であるかのようなほのめかしをしていたのですが、「特殊な関係」を立証するエピソードなど皆無でした
もう1人の、親の殺害を企図して果たせなかった日本人の女子中学生の方がどのような家庭の事情があったのか、詳細は不明です
この2人が出会い、互いの心情に思いを重ねるうちに親への敵意が増幅され、過激な行動に走ったとする見方もそれはそれで筋が通るのですが、本当にそうなのでしょうか?
日系ブラジル人の女子中学生がこの同じ境遇の同級生に出会わなかったとしても、遅かれ早かれ暴発し、何らかの事件を起こしていた可能性は十分に考えられます。親友がいなければ彼女の孤独はより深く、現在の生活への絶望感は加速度的に高まっていたとも推測できます
そうした孤独と絶望により、彼女は親への傷害事件を起こした可能性はありますし、あるいは同級生か誰か第三者を傷つけることによって逮捕され、家庭から離れて少年院で暮らそうと思うに至ったかもしれません
むしろ親友がいたからこそ、彼女の暴発が抑制されていたとも言えます
ですから、親友の存在が事件の引き金になったとこじつけるのは無理があると自分は考えます
いつも述べているように、事件の理由や原因をあれこれ考えるのではなく、彼女たちにとって親殺しがどのような意味を有していたのか、事件の意味を問うべきだと思うのです
こうした事件の報道では、彼女たちが反省を口にしたかどうかが注目されます。中身はともあれ、彼女たちが反省の弁を述べたと報じられれば、読者はほっとするからです
ですが、「反省」とは何でしょうか?
「反省しているのか」との問いは日常的に使われるのですがこの場合の反省とは、「親を手にかけるという非道な行為への罪障感」をことばで表明できるか否かであり、それができれば「反省した」と見なされます
しかし、こうした「反省」とは意識化された思慮によって、己の無意識下にある未解決の問題(母親や義父を殺したいとまで憎悪した本当の意味を彼女自身、見出せないまま宙吊りにしている状態)を放置してしまう危険があります
つまり「反省した」(合理的な解釈によって親殺しへの罪障感を自分なりに説明した)と言いつつも、彼女は母親を殺した己の行為の意味を見出せず、これから先、長く苦しみ続けるかもしれないと考えるのです

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