宮崎アニメに対する中国メディアの批評

「突っ込んだら負け」なのかな、と思うくらい中国系メディアの文化関係記事は質が低いのですが、今回もそんな1本の記事を取り上げます
「中国網日本語版(チャイナネット)」 の配信記事で、宮崎駿のアニメーション作品を中国人の学者が批評するというものです

宮崎駿のアニメを見て「人間嫌い」になるか

記事の中で掲げられている写真のキャプションが「ものもけ姫」になっています
これを見ただけで記事本文を読むまでもなく、「もうダメだわ」と思ってしまいます
編集部の責任なのか、記者の責任なのかは知りませんが、こんな記事を配信しているようでは信頼されません(自分のブログも誤字脱字だらけですが)
記事の中で秦剛教授が指摘している「人間に対する憎悪は人間への愛情に基づくのではないか」との考えも、何をいまさら感が漂います
「紅の豚」で主人公が人間をやめて豚になった、といっても人間社会と関わって生きているのであって、人間を捨てて何物かになるなどというわけにはいきません。それではドラマにもなりません
「人間嫌い」なのではなく、むしろ「人間への愛着が深いゆえに憎悪する」と言い換えるべきでしょう
その根底にあるのは「人間の業の深さ」に対する畏怖と自戒なのかもしれません。ですが現代中国に「人間の業」という概念が理解できるのか、不明です
宮崎駿を、「機械文明を否定し、自然への回帰を主張するエコロジスト」のように誤解している人もいますが、彼が軍事オタクであり戦闘機マニアであるのを忘れているのではないかと指摘したくなります
人間の作ったものだからそれ(機械、兵器)を否定したりはしませんし、自然だからこれを賛美するというものでもありません
人間好きか、人間嫌いかなどという議論の作り方自体が不毛です
教授の講演内容がどのようなものであったか不明確ですし、講演後の質疑応答が記事の骨格なのですが、本筋とは無縁な部分に字数を割きすぎているため、何を表現しようと意図したのかぼやけてしまっています
教授が何か重大な事実を発見し、指摘したというほどの話ではありません
翻訳が拙いのか、元となった教授の発言に問題があるのかは不明ですが、その責任の多くは記事の書き方にあるのでしょう
例えば文末の部分です

また、アニメの観賞の仕方について、「アニメにはそれぞれ異なる観賞の仕方があります。若い人たちには、一晩で数十回見て『消費』する人もいますが、私個人としては、何十回も同じアニメを見て、テクストと付き合いながらアニメの中に込められた思考を共有する方法が好きです」と秦剛教授は語った。

この下りは、「若い人たちは一晩でいろいろな作品を何本も見て消費するが、自分の方法は違う。より深くテクストを読み解くために何十回も同じアニメを見る」と言いたいのでは?
もっとも、そうした鑑賞方法もサブカル批評好きの日本人なら誰でもやっており、目新しさも何もありません

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