清心女子高傷害事件を考える4 思いやりと我慢
授業中の教室内で生徒が生徒をナイフで刺すという事件が起き、社会に衝撃を与えました。こうした事件が起きると、判で押したような報道、主張が展開されます
代表的な例として産経新聞の社説を挙げます
「ところが近年は、普段はおとなしい生徒が暴力行為や凶行に及ぶ事件が目立つ」としていくつかの事件を例示していますが、これらの事件を個別のケースとして吟味し検討した上で語っているとは到底思えません
ただ、学校で起きた事件として列挙し、一括りにするだけの乱暴なやり方です
社説を買いた論説委員はさまざまな事件を知っているのでしょうが、事件を理解しているとは言い難いように見えます
「横浜の事件で加害生徒は、隣席の被害生徒がうるさいからなどとして席替えを求めていたという。山口の事件では『イライラしてやった』などと述べている。結果の重大さに比べ、その動機には首をかしげざるを得ない」と書いていますが、こうした生徒の供述が事件を起こすに至った本当の動機ではありませんし、事件の原因でもありませんし、事件の意味を規定するものでもありません。事件を考えるにはそこからさらに踏み込まなければならないのです
さらに言えば、こうした一見つまらない口実にしか聞こえない不満、いらだち、愚痴にこそ彼や彼女の苦悩や葛藤が反映されているのであり、それを汲み取れない人間に事件を語る資格はありません(少なくとも臨床家とは言えません)
しかし、論説委員は踏み込むつもりはさらさらなく、表面をなぞっているだけです
「教育委員会によっては入学後の早い段階に宿泊体験を取り入れるなど指導を工夫している」と書いていますが、先日浜名湖で起きたボートの転覆事故のように、稚拙なことをやっている学校もあります
「幼少期から思いやりや我慢などを体験的に教え」と書いていますが、こうした事件を起こすこどもたちを「親に甘やかされて育ったから我慢ができない。わがまま放題」などと決めつけるのは大きな誤りです
佐世保での小学6年生の事件は当ブログでも書いたとおり、複雑な生育歴と経緯が関係しており、単なるわがままの結果などではありません
事件の重大さを指摘し、世の中に警鐘を鳴らしているつもりで社説を書いているのでしょうが、実際のところは個別の事件を詳細に検討してもいないため、こうした思い込みだけの社説になってしまうのではないかと推測します
家庭と学校の連携が重要だ、との指摘は20年以上も前から言われており、何をいまさらという感があります
連携が必要だと言われつつ、それができないまま20年以上経過しているのが実情です
この先20年経っても産経新聞は同じ社説を掲げるのでしょうか?
もちろん、家庭と学校の連携ができないのは新聞社のせいではありません
基本的な躾は家庭の役割だとする学校と、子供の教育は学校の責任だとする家庭が歩み寄らないのですから、両者の連携など実現するわけがありません
話を戻しますが、本件で犯人である女子生徒が執拗に席替えを求めていたのであれば、そこには必ず理由があり、席替えに何らかの意味を求めていたと思われます
人の心の内奥に踏み込もうとする気概も見識もない産経新聞の論説委員には理解できないのでしょうが・・・
前回も述べたように、本件を生徒間の単なるトラブルであり、思いやりや我慢が足りないから起きたなどという見方をする限り、この事件の意味は見出せないと断言しておきます
さらに地域の連携について指摘するなら、山形県のマット殺人事件や福岡の女子高生体罰事件のように、おかしな地域の理屈が暴走し事件そのものを歪め、なかったことにしようと動いたひどい例があると申し添えておきます
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