村上春樹を読み誤る中国人文学者 その1

サーチナが掲載する文化評論にはトンチンカンなものが多く、いつもネタとして取り上げています。今回は村上春樹を中国人の文学者が取り上げ批評していますが、突っ込みどころだらけです


冒頭、「現代の日本を理解するためには二つの『M』が必要と言える。一つ目のMは漫画(Manga)であり、もう一つは村上(Murakami)である」と書かれています
この辺りからもう、「ダメだな。何も分かっていないな」という感じが漂っています
そもそも冒頭で「二つのM」が重要だとして漫画と村上春樹を挙げているのですが、以下の文脈では漫画と村上春樹の関連について語る気がまったくなさそうです
ついで、唐突に「言葉」の表現へと飛躍します。これはむしろ「言葉」の問題ではなく、村上春樹の「文体」と指摘すべきでしょう
この後の文脈に「文体」が登場しますが、「言葉の問題」なのか、「文体の問題」なのか、おそらくこの文学者毛丹青は混乱したまま語っているように思われてなりません
あるいは唐突に、「比較文学研究の角度から村上春樹の知名度上昇の秘密を解こうとする時、われわれは彼の『内なるもの』と『外側』に注意を払わなければならない」と言い出すのですが、何を目的としてどこへ行こうとしているのか支離滅裂です
そもそも「内」と「外」などという二元論で村上春樹を語ろうとする試みが失敗でしょう
「内」と「外」の対立、拮抗、葛藤が村上春樹の小説の特徴なのでしょうか?
毛丹青は「『内なるもの』は言葉である。『外側』は社会全体の文化、政治、流行・風潮といった要素で、言葉を用いる際のコントロールをする」のだと主張するのですが、こんな設定はガチガチの共産主義者的発想でしょう
つまり「言葉」対「体制」と言いたいのかもしれません
しかし、そこから先の展開は何度読み返しても分かりません
「村上春樹の最大の特徴は、まさにこの自らの内なるものを使って日本語の文体を変えていった点にある」と指摘しているのですが、「内なるもの」=言葉ですよねえ?
毛丹青はなにか重大な発見をし、新事実を指摘しているつもりなのでしょうが、意味不明です
言い換えれば、「村上春樹の最大の特徴は、まさにこの自らの言葉を使って日本語の文体を変えていった点にある」としかなりません
あるいは言葉を「語り口」と置き換えた方がよいのでしょうか?
作家はそれぞれの文体、語り口をもっていますので、それが村上春樹の最大の特徴だと言われても、当たり前のことに過ぎず、何が最大の特徴なのか不明です
川端康成には川端康成の文体があり、語り口があります。大江健三郎には大江健三郎の文体があり、語り口があります
伝統的な日本の小説の文体(例えば川端康成)とは大きく異なる村上春樹の文体が、世界の人々にはすんなりと受け入れられた、とでも言いたいのでしょうか?
この記事は続編があるようなので、続編が翻訳・紹介されればまた取り上げたいと思います
端的に言うなら、学生運動や戦争などの社会問題を「プールに飛び込んで差し歯をなくしてしまった喪失感」のような、私的体験の延長上で語ろうとする態度にこそ、村上春樹の特徴があると思うのですが
学生たちがデモをし、連帯を訴え陶酔している中にあっても、孤独な暮らしの中で自分の喪失感と向き合っている主人公に読者は共感を覚えるわけです
さて、毛丹青はどう語るのでしょうか。漫画と村上春樹の関係には触れるのか、気になります

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