清心女子高校傷害事件を考える2 共時性

今度は山口県の高校で男子生徒が包丁で女子生徒を斬りつける事件が発生しました


無差別の通り魔殺人のような衝撃的な事件が発生し、それが報道されると、時を置かず別の場所で類似した事件が発生するという例が過去にあります
さまざまな煩悶、ストレス、葛藤を抱えている人物が事件の報道に背中を押され、凶行に走ってしまうと考えられています
今回の山口での傷害事件が、横浜での清心女子高の事件とどう関係しているか、立証するのは困難でしょうが、まったく無関係ではないと思われます
さて、清心女子高の事件の方ですが、当初はナイフをホームセンターで購入したと供述していましたが、その後、万引きしたものだと供述を改めたようです


これをもって計画的な犯行と言うべきなのかどうかは疑問です
犯人である女子生徒は犯行の前日もナイフを隠し持って登校し、刺す機会を伺っていたと思われますが、犯行には至りませんでした
相手の生徒を「刺すしかない」との衝動に駆られ、ナイフを万引きしてまで準備をしたわけですが、それでも犯行に踏み切れない躊躇が彼女の中にはあったのでしょう
「刺すしかない」という内奥から沸き上がってくる衝動に駆られている状態は、まさに強迫神経症のそれです
だからといって責任能力がなかったとは言えません。犯行を躊躇したのは彼女が善悪の判断をする能力を完全に喪失していなかったためだと考えられます
そして腹部を刺したのは相手を刺すのが目的であり、確実に殺害するという周到な計画は存在しなかった証だとも言えます
前回例に挙げた佐世保の小学6年生女子児童による犯行では、相手を確実に殺害するためカッターナイフで喉を切り裂き、失血死させています。この児童は殺害の方法を何度も頭の中でシミュレーションし、一番確実な方法を選択したと思われます。つまり、最初から殺す目的があったと言わざるを得ないのです
これに対し、清心女子高の事件では腹部をナイフで刺しています。テレビドラマでは腹部を刺されただけで被害者は即死するのですが、現実は必ずしもそうなりません
もちろん本件の被害者は意識不明の状態が続いており、その回復を祈念するのは言うまでもありませんが
犯人である女子生徒は何らかの理由、事情で追い詰められ(それは現実的なトラブルであるとは限りません。被害妄想の可能性もあります)、相手を刺すしかないと思い極めて犯行に至ったわけです
通常、何らかの前兆やサインがあったはずだと言われますが、担任の教師にそれを把握しろと言っても酷でしょう
40人近い生徒がいて毎日様々な出来事が生じる中で、1人の生徒の内面的な葛藤を見抜けと要求するのは無理があります
事前に被害者である生徒と隣の席であるのが嫌だと申し出ていたと報じられていますが、それを犯行の前兆だと解釈する教師はいないでしょう
事件を未然に防ぐ手立てがなかったかと検討し、対策を模索するのは必要ですが、残念ながら100%防ぐことは不可能です
スクールカウンセラーがいても、生徒が相談に訪れなければ機能しません

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