「切り裂きジャック」殺人 売春婦を殺害する理由

「切り裂きジャックの研究者が連続女性殺人」と報じられたニュースの続きです
犯人とされるスティーブン・グリフィスのプロフィールや、事件の様相について触れた記事が出ました


イギリスの大衆紙「サン」の報道は以下のようなものです。「シリアルキラー」とか「カニバリズム(人肉食)」という表現が踊っており、かなり扇動的な書き方をしています。あるいは過去の連続殺人鬼の情報も並べ、これでもかと「異常さ」を強調する記事の構成です


さて、前回は「ヨークシャーの切り裂き魔」について触れ、母親との近親相姦願望が妻とのセックスの障害になり、そうしたコンプレックスに起因する怒りのはけ口として売春する女性を憎悪し、殺害するに至ったと乱暴なまとめ方をしました
話が飛躍しすぎて何のことやら分からない、と思われる人もいるかと推察されるのでもう少し補足してみます
欧米では人を侮蔑する表現として、「おまえの母親はビッチ(売春婦)」という言い回しが使われます。日本ではこうした言い方は滅多にないと思いますが
これは最上級の侮辱の表現であり、こんな言い方をされたら相手を殴り倒しても構わないとされるほどです。ワールドカップでフランスのジダン選手がイタリアの選手の侮辱発言に怒って暴行を加え退場になりましたが、この種の発言が原因と言われてます
他方でこうした侮辱の表現には、複雑な愛憎が秘められていると考えられます
前に述べたように連続殺人では売春婦が標的とされるケースがあり、売春婦でなくても遊び歩いている女性や、そのように見える女性(犯人の勝手な偏見です)が殺害の対象とされます
売春婦への蔑視から殺人犯は「売春婦は殺されて当然」と発言しますが、売春婦に対する憎悪の形成には彼の抱えるコンプレックスと、それを補おうとして作り出された妄想が反映しているのだろうと考えます
例えば勃起不全でセックスが不可能だという己の問題を、売春婦に絡めた妄想で彩り、サディズムとマゾヒズムの入り混じったストーリーに仕立てるという具合です
売春婦は悪であると同時に、性的なコンプレックスを補おうとする物語の中では救い主(SMプレーの女王様)のような存在でもあるわけです
嫌悪や憎悪の対象でありながら、同時に希求の対象でもあり、憧れを託したり救いを求める対象でもあり、蔑みながらもそれを求めずにはいられない倒錯した存在です
そして母親との近親相姦願望ですが、これを正面から認める人はほとんどいないと思われます。しかし、近親相姦願望を抱く人間はその禁止された行為を追い求め、さまざまな妄想を膨らませます
上記のようなSMプレーの女王様というのも母親のメタファーであり、女王様に命じられセックスを強要されるというシチュエーションは近親相姦願望の裏返しです
その人なりに多用な妄想を練り上げますので、年上の売春婦とセックスを強要されるとか、逆に自分が男娼となってさまざまな女性に買われるなど、さまざまなシチュエーションを用意し、物語の中で快楽を追求しようとします
外見的な犯行は売春婦を殺したという行為ですから、どれもこれも同じではないかと言われるかもしれませんが、そこに至るまでの犯人の内面で繰り広がられている物語や葛藤には彼独自のものであり、安易に同一視すべきではないと考えます
荒唐無稽に見えるかもしれない妄想の中に、彼が抱えるコンプレックスや不安、恐怖、羨望などなどが巧みに偽装され、織り込まれているわけで、それを読み解くことこそが彼を理解する方法だと精神分析では考えます
つまり、「切り裂きジャック」の犯行と今回の事件を安易に同じものと決めつけるのは禁物ですし、同じだと決めつけたところ何も見えてはきません
むしろ犯行に至るまでの心の内奥に力動に注目し、その違いを論じることこそが重要なのだろうと思います

(関連記事)
「切り裂きジャック」研究者が売春婦殺害で逮捕
「切り裂きジャック」殺人 売春婦を殺害する理由
現代の切り裂きジャック事件に終身刑の判決 英国
英国切り裂きジャック殺人 グリフィス被告のその後
「切り裂きジャック」事件 125年目の真相
切り裂きジャックの正体判明という報道
イギリスの殺人鬼「ヨークシャー・リッパー」 コロナで死亡
https://03pqxmmz.seesaa.net/article/202011article_24.html
犯罪心理学の准教授が妻刺殺 「論文を書くためやった」
犯罪心理学の准教授が妻刺殺 妻との格差
https://03pqxmmz.seesaa.net/article/202004article_11.html
犯罪心理学の准教授が妻を刺殺 浅野被告初公判はまだ
ロサンゼルスの殺人鬼「グリムスリーパー」に死刑判決
自分を捨てた父親を探したら殺人鬼だった 「ゾディアック事件」
島根女子大生遺棄事件を考える30 犯人家族の苦悩
佐川一政 パリ人肉食事件を考える1
一斗缶殺人事件で懲役28年の判決
今市女児殺害事件 犯行を自供した男
今市女児殺害事件 「物色中に偶然見つけた」
今市女児殺害事件 逮捕まで8年半
実在した殺人鬼を描く映画「チャイルド44 森に消えた子供たち」
ロシア政府が米映画「チャイルド44」を批判、上映禁止
高槻少女殺害事件を考える1 快楽殺人
高槻少女殺害事件を考える2 遺体は寝屋川の中学生
高槻少女殺害事件を考える3 杜撰さと周到さ
高槻少女殺害事件を考える4 容疑者逮捕
高槻少女殺害事件を考える5 山田容疑者の行動
高槻少女殺害事件を考える6 星野くん犯人説?
高槻少女殺害事件を考える7 山田容疑者の素性
高槻少女殺害事件を考える8 性的サディズム
高槻少女殺害事件を考える9 監禁事件7件
川崎トンネル殺人事件 11年経て服役囚が犯行自白
川崎トンネル殺人事件 「切り裂きジャックに憧れた」
座間9人殺害事件を考える 快楽殺人説
座間9人殺害事件を考える 犯罪心理学者の見解
座間9人殺害事件を考える 被害者8人が女性
座間9人殺害事件を考える 白石容疑者逮捕

シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック (河出文庫)
河出書房新社
マイケル・ディブディン

ユーザレビュー:
ホームズらしさがない ...
ホームズ・ファンとし ...
多読の素材としてはお ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る


この記事へのトラックバック