死刑囚に感情移入する愚かさ
NHKで放送されたETV特集「死刑囚 永山則夫~獄中28年間の対話」(10月11日放送)について番組批評雑誌「GALAC」は、放送批評懇談会が選ぶベスト番組と賞賛しています
生憎と見逃してしまいましたので番組そのものについては語れませんが、しかしこれがさほどまでに評価できる番組であったのかは疑問です
番組は死刑囚永山則夫と、文通を重ねた上で結婚した妻和美さんを取り上げたものです。永山はその著書「無知の涙」で悲惨な生い立ちを語り、多くの同情を集めました
さらに犯行当時未成年であった永山を死刑にするのは妥当か、どうかで論争が沸き起こりました。「無知の涙」に影響され、永山に同情する声が多かったと聞いています
ですが、永山の死刑が執行されてかなりの歳月が経過したとき、雑誌に掲載された記事を読んで安直な死刑囚への同情など無益だと思い知らされた経験があります
雑誌の名前も記事のタイトルも忘れてしまいましたが、永山則夫に殺された被害者遺族を訪ね歩いて書かれたルポルタージュで、被害者遺族がいかに悲惨な生活を強いられたか綴られていました
上述のとおり世間では永山に同情する声が多かったのですが、他方で被害者遺族は忘れ去られ、同情も得られませんでした。永山は「無知の涙」の印税を被害者への弁済に提供した、という話も美談化されていますが、被害者遺族の慰めにはならなかったのも事実です
上記の雑誌の記事には、「処刑された永山の灰は和美さんが網走の海に撒いた」とこれまた美談のように表現するのもおこがましいと思います
死刑囚を殉教者、受難者のように祭り上げ、そこに何かのドラマを見出そうとする下世話な発想に辟易します
永山と妻和美さんにどのような心の通い合いがあったのかは第三者の知るところではありませんし、それを美談に仕立てるのは疑問です
テレビ番組の批評をする者たちがこうした番組に感情移入し賞賛するのは、批評の精神が欠けていると証明しているようなものです
テレビ番組を批評するのなら対象から距離を置き、もっと冷静な目で見るべきでしょう
永山に殺された4人の犠牲者とその遺族の現状など思い起こしもしないで、あっさりと死刑囚を賛美する側に回ってしまうのは情けない話です
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