元厚生次官殺傷事件を考える3 動機を理解できません
引き続き元厚生事務次官らを殺傷した小泉被告の裁判を取り上げます
12月15日は殺害された被害者の遺族が出廷しました。小泉被告の弁護人はそれぞれの遺族に「(小泉被告の犯行の)動機は理解できますか」と質問しています
遺族は当然、「理解できない」と答えています
そもそも弁護人はなぜこのような質問をしたのでしょうか?
小泉被告は犯行そのものを否定しているわけではなく、殺傷の事実を認めていますですから裁判は事実関係を争っているのではありません
小泉被告は殺傷の事実は認めるものの、「自分が殺したのは魔物であるから無罪だ」と主張しているのです
つまり被告側は殺傷された被害者に非があった、と立証しなければなりません
ですが小泉被告は元厚生省事務次官やその妻にどのような非があったのか、立証できる材料は何も持ち合わせていません。新聞やテレビのニュースで報じられた年金問題や社会保険庁の怠慢などについて申し立てることはできても、殺された被害者自身の非違を直接立証する資料や証拠を握っているわけではないのです
そして前日は精神鑑定を行った鑑定人を激しく攻撃した小泉被告ですが、今回の証人尋問ではまったく発言しませんでした
思うに、被害者遺族が被害者との思い出を延々と語ったところで小泉被告は興味も関心もなく、同情も反省も浮かばなかったのでしょう
「極刑を求めます」と被害者遺族が発言しても、小泉被告にとっては心を動かされはなかったわけです
つまり殺害された人にしても、その遺族にしても小泉被告にとってはどうでもよい存在であり、何を言われようが気にならなかったのです
怒りの矛先が向かっていたのは殺傷された個々の人々ではなく、小泉被告が勝手に作り出した「けしからん存在」というイメージだったのかもしれません
その「けしからん存在」に制裁を加えた今、小泉被告にとって裁判はひたすら己の正当性を主張する場であり、被害者遺族にわびるつもりも同情するつもりもないのだろうと考えます
とはいえ、弁護人の「動機は理解できますか?」の質問は不可解です
「理解できる」といえば、遺族が元厚生省事務次官の生前の行いに非違があったと認め、殺されて当然だったと犯行を肯定することになるのでしょうか?
この質問は被告人と弁護人との打ち合わせの上で発せられたものと推察されるのですが、自分にはその意図がはかりかねます
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